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はやぶさ2サンプルの分析戦略と期待される科学成果について   2020/12/04


2020/12/6に地球に帰還するはやぶさ2からはC型小惑星リュウグウの物質がサンプルリターンされる予定です。サンプルの初期分析はどのような戦略で行われるのか、そしてどのような科学的成果が期待されるのか。はやぶさ2サンプラーチームの論文をもとにまとめます



(字幕全文)

はやぶさ2ミッションの理学目標のうち、目玉となっているのが、

「C型小惑星の物質科学的特性を調べる。

特に鉱物―水―有機物の相互作用を明らかにする」というものがあります。

本動画では、小惑星リュウグウで回収した試料から、

具体的にどのような科学成果が生み出されるのか、

はやぶさ2サンプラーチームの論文をもとに、

初期分析の戦略と今後の見通しを研究者の視点でまとめます。


はやぶさ2が探査した小惑星リュウグウは、

C型に分類される反射スペクトルを持っており、

炭素質コンドライトの母天体であると考えられています。

炭素質コンドライトは含水鉱物や有機物を豊富に含む隕石であるため、

リュウグウのようなC型小惑星が、地球を含む固体惑星への、

水や有機物の供給源となった可能性があります。


はやぶさ2のサンプル分析において、初号機との最大の違いは、

試料中の含水鉱物や有機物を積極的に狙いに行く点です。

しかしこういった有機物の分析は、

地球大気中の有機物に汚染されやすいのが難点です。

一度汚染されてしまった試料からコンタミを除去するのは極めて困難なため、

コンタミをいかに防止するか、というのが最大の課題になります。


はやぶさ初号機では、サンプル格納容器の密閉方法に問題があり、

地球帰還後に容器内に地球大気が混入してしまいました。

この反省を活かして、はやぶさ2では格納容器の密閉方法を、

2重Oリングからアルミメタルシールによる密閉に改良しています。


それでも大気圏突入から時間が経つほどコンタミの確率が上がります。

また時間が経つと有機物が熱によって変成してしまう可能性もあります。

着陸予定地点の南オーストラリア州はこれから本格的な夏を迎える時期です。

砂漠地帯のため乾燥しているとは言え、

格納容器には真空ポンプや冷凍機がついているわけではありません。

カプセルの突入後、迅速にカプセルを発見し、回収することが重要です。

また、はやぶさ2サンプラーチームは、

着陸地点付近でサンプル分析を行える即席の実験室を立ち上げており、

容器内の揮発性ガスを現地で迅速に分析する計画です。


それでは、リュウグウ回収試料からはどのような科学的知見が得られるのでしょうか。


まず回収試料は3種類に分別されます。

1.mmサイズ以上の大きな粒子(粗粒粒子)

2.0.1mmよりも小さいサイズの微粒子(細粒粒子)

3.揮発性ガス


粗粒粒子は粒が大きく、小惑星上で比較的移動しにくいと考えられるため、

サンプル採取地点周辺の局所的な地質学的・鉱物学的情報を表すと考えられます。

一方、細粒粒子は小惑星全球のより平均的な情報を表すと考えられ、

レゴリスの形成過程や宇宙風化といった、

小惑星表層で起こる地質プロセスを反映すると考えられます。

そして揮発性ガスからは、

有機物の起源や進化、脱ガスの過程といった情報を得られるでしょう。


このように回収試料に対し、地球化学、鉱物学、岩石学、有機化学など、

様々な手法を組み合わせた分析が行われ、

銀河・分子雲から、原始太陽系円盤、微惑星、メインベルト小惑星、

地球近傍小惑星というように、

太陽系誕生以前から現在の太陽系にいたるまでの、

物質進化の包括的な理解が図られる見通しです。


オーストラリアで回収された試料はその後日本に運ばれ、

JAXA 宇宙科学研究所の 地球外試料 キュレーションセンターで保管されます。

その後、はやぶさ2のチームや

サンプルを配布された国内外の研究機関で分析されていきます。


はやぶさ2のサンプルを分析・保管するために、

様々な研究機関で分析技術の開発や新たな装置の導入が進んできました。

はやぶさ初号機、そしてはやぶさ2がもたらした隠れた成果の一つが、

このようなインフラ設備の導入と人材育成が全国各地で進んだことでした。

こうして培った技術と人材をしっかりと継続的に活用していくことが、

今後の日本の太陽系探査において、非常に重要になっていきます。


既にはやぶさ2以降を見据え、

JAXAは現在、火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを狙う、

火星衛星探査計画MMXの開発を進めています。

また、先日行われた日本惑星科学会秋季講演会でも、

MMX以降の次世代サンプルリターンミッションが、

理学・工学の有志の若手研究者らによって検討され始めたことが発表されました。


このように一つの探査ミッションの成功は、

理学・工学の幅広い範囲に波及効果をもたらします。

はやぶさ初号機と2号機が渡してくれたバトンを、

私たちは将来の世代に繋いでいく責任があるといえるでしょう。


それではご視聴いただき ありがとうございました。

次回もお楽しみに。


HAYABUSA2のサンプル分析について (事前予定)





はやぶさ2サンプルの分析戦略と期待される科学成果について   2020/12/04

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2020/12/6に地球に帰還するはやぶさ2からはC型小惑星リュウグウの物質がサンプルリターンされる予定です。サンプルの初期分析はどのような戦略で行われるのか、そしてどのような科学的成果が期待されるのか。はやぶさ2サンプラーチームの論文をもとにまとめます



(字幕全文)

はやぶさ2ミッションの理学目標のうち、目玉となっているのが、

「C型小惑星の物質科学的特性を調べる。

特に鉱物―水―有機物の相互作用を明らかにする」というものがあります。

本動画では、小惑星リュウグウで回収した試料から、

具体的にどのような科学成果が生み出されるのか、

はやぶさ2サンプラーチームの論文をもとに、

初期分析の戦略と今後の見通しを研究者の視点でまとめます。


はやぶさ2が探査した小惑星リュウグウは、

C型に分類される反射スペクトルを持っており、

炭素質コンドライトの母天体であると考えられています。

炭素質コンドライトは含水鉱物や有機物を豊富に含む隕石であるため、

リュウグウのようなC型小惑星が、地球を含む固体惑星への、

水や有機物の供給源となった可能性があります。


はやぶさ2のサンプル分析において、初号機との最大の違いは、

試料中の含水鉱物や有機物を積極的に狙いに行く点です。

しかしこういった有機物の分析は、

地球大気中の有機物に汚染されやすいのが難点です。

一度汚染されてしまった試料からコンタミを除去するのは極めて困難なため、

コンタミをいかに防止するか、というのが最大の課題になります。


はやぶさ初号機では、サンプル格納容器の密閉方法に問題があり、

地球帰還後に容器内に地球大気が混入してしまいました。

この反省を活かして、はやぶさ2では格納容器の密閉方法を、

2重Oリングからアルミメタルシールによる密閉に改良しています。


それでも大気圏突入から時間が経つほどコンタミの確率が上がります。

また時間が経つと有機物が熱によって変成してしまう可能性もあります。

着陸予定地点の南オーストラリア州はこれから本格的な夏を迎える時期です。

砂漠地帯のため乾燥しているとは言え、

格納容器には真空ポンプや冷凍機がついているわけではありません。

カプセルの突入後、迅速にカプセルを発見し、回収することが重要です。

また、はやぶさ2サンプラーチームは、

着陸地点付近でサンプル分析を行える即席の実験室を立ち上げており、

容器内の揮発性ガスを現地で迅速に分析する計画です。


それでは、リュウグウ回収試料からはどのような科学的知見が得られるのでしょうか。


まず回収試料は3種類に分別されます。

1.mmサイズ以上の大きな粒子(粗粒粒子)

2.0.1mmよりも小さいサイズの微粒子(細粒粒子)

3.揮発性ガス


粗粒粒子は粒が大きく、小惑星上で比較的移動しにくいと考えられるため、

サンプル採取地点周辺の局所的な地質学的・鉱物学的情報を表すと考えられます。

一方、細粒粒子は小惑星全球のより平均的な情報を表すと考えられ、

レゴリスの形成過程や宇宙風化といった、

小惑星表層で起こる地質プロセスを反映すると考えられます。

そして揮発性ガスからは、

有機物の起源や進化、脱ガスの過程といった情報を得られるでしょう。


このように回収試料に対し、地球化学、鉱物学、岩石学、有機化学など、

様々な手法を組み合わせた分析が行われ、

銀河・分子雲から、原始太陽系円盤、微惑星、メインベルト小惑星、

地球近傍小惑星というように、

太陽系誕生以前から現在の太陽系にいたるまでの、

物質進化の包括的な理解が図られる見通しです。


オーストラリアで回収された試料はその後日本に運ばれ、

JAXA 宇宙科学研究所の 地球外試料 キュレーションセンターで保管されます。

その後、はやぶさ2のチームや

サンプルを配布された国内外の研究機関で分析されていきます。


はやぶさ2のサンプルを分析・保管するために、

様々な研究機関で分析技術の開発や新たな装置の導入が進んできました。

はやぶさ初号機、そしてはやぶさ2がもたらした隠れた成果の一つが、

このようなインフラ設備の導入と人材育成が全国各地で進んだことでした。

こうして培った技術と人材をしっかりと継続的に活用していくことが、

今後の日本の太陽系探査において、非常に重要になっていきます。


既にはやぶさ2以降を見据え、

JAXAは現在、火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを狙う、

火星衛星探査計画MMXの開発を進めています。

また、先日行われた日本惑星科学会秋季講演会でも、

MMX以降の次世代サンプルリターンミッションが、

理学・工学の有志の若手研究者らによって検討され始めたことが発表されました。


このように一つの探査ミッションの成功は、

理学・工学の幅広い範囲に波及効果をもたらします。

はやぶさ初号機と2号機が渡してくれたバトンを、

私たちは将来の世代に繋いでいく責任があるといえるでしょう。


それではご視聴いただき ありがとうございました。

次回もお楽しみに。



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