2017.8.9 11:00更新
【関西の議論】
廃虚マニアが熱視線「神戸のマヤ遺跡」 ツアー大ウケ、ネット募集1分以内にチケット完売
摩耶観光ホテル跡地などを巡る「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」。「ようやく来られて夢のようだ」と涙を浮かべる廃虚マニアの若者も=神戸市灘区(摩耶山再生の会提供)
神戸市灘区の摩耶(まや)山中にたたずむ廃虚の摩耶観光ホテル跡地が人気を集めている。地元のまちおこし団体が「不法侵入者の撃退対策」として、廃虚を「神戸のマヤ遺跡」と名付けてツアーを企画したところ、廃虚マニアをはじめ、香港や台湾など海外からの観光客も参加する人気スポットに一変したのだ。なぜ人は廃虚に引きつけられるのだろうか。(木下未希)
「軍艦ホテル」…台湾や香港からも
摩耶観光ホテルは昭和4年に開業した「摩耶山温泉ホテル」が前身。先の大戦の影響で営業を休止したが、摩耶ケーブルの整備に伴い36年に摩耶観光ホテルとして復活した。外観が船の艦橋のように見えることから「軍艦ホテル」とも呼ばれたという。しかし平成5年に経営難で廃業し、7年の阪神大震災以降は立ち入り禁止となり、その後は荒れ果てたままだった。
廃虚ツアー「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」は摩耶周辺の活性化を目指す地元の「摩耶山再生の会」が主催している。
摩耶ケーブルと摩耶ロープウエーを乗り継ぎ、山頂付近の星の駅から約1・2キロの山道を歩いて下る。火災で焼失した旧「天上寺」や摩耶観光ホテル跡地など計15の遺跡や廃虚を巡る行程だ。
今年3月から月1回のペースで開催。定員は20人限定で、インターネット上で募集する。参加費は1770円。同会事務局長の慈(うつみ)憲一さん(51)によると、初回の受け付け開始時には多くの人が同時に参加ボタンを押し、サーバーがダウンした。その後の募集でも1分以内にチケットが売り切れる人気ぶり。参加者も20~60代と幅広く、中にはインターネットで「神戸のマヤ遺跡」と紹介されたホームページを見た台湾や香港からの参加もあるという。
今春に行われたツアー当日、参加者たちは同会メンバーの引率を受け、山頂から山道を下った。約1時間半後、生い茂る草木の合間から突然、目の前に巨大な廃虚が姿を現した。はがれた壁、ガラスのない窓、足下に散乱したがれき…。山中にひっそりとたたずむ姿が不気味な雰囲気を醸し出している。
感想もさまざまだ。「昔泊まったことがある。懐かしい」と話す高齢者もいれば、自称廃虚マニアの若者は「ずっと来たかった。ようやく現場に来られて夢のようだ」と涙を浮かべた。
きっかけは「不法侵入」
なぜ、ツアーを企画したのか。
摩耶山再生の会の慈さんは平成27年、摩耶観光ホテル跡地の所有者から「廃虚マニアの不法侵入が後を絶たない。このままでは事故が起こる」という悩みを打ち明けられた。
跡地には多くの廃虚マニアが訪れ、サバイバルゲームを楽しむ人や、コスプレ姿でろうそくを手に記念撮影する若者らがインターネット上で写真や動画をアップ。壁には落書きがあり、揚げ句には遭難者も出て、警察などが捜索を行う騒ぎも起こったという。
所有者は「壊してしまおう」と考えたが、撤去工事の見積もり費用が5億~6億円と高額に。頭を抱える所有者の話を聞いて、慈さんはひらめいた。
「逆に廃虚ツアーを行うことで、不法侵入者が減るのでは。企画が当たれば観光資源にもなる」と。
もともと同会は23年、摩耶山を多くの人が訪れる山に再生する目的で結成。山上でフリーマーケットを開くなど摩耶山への観光客誘致を進め、摩耶ケーブルや摩耶ロープウエーの利用者増と地元の活性化を進めてきた。
両者の利害が一致し、廃虚ツアーの企画が一気に進んだ。山中に点在する遺産付近の道や階段を改めて整備し、廃虚ブームの〝火付け役〟となった長崎県の「軍艦島」も視察。摩耶ロープウエーの虹の駅に山中の遺跡の歴史を解説した写真パネルを展示した。
摩耶山中にある廃虚ということで、ツアーのタイトルは中南米のマヤ遺跡にかけた「神戸のマヤ遺跡」と命名した。ツアーは口コミやネットで話題を呼び、開始以降は不法侵入者が減った。平日の摩耶ケーブルの利用者増にもつながった。
世界の遺跡と結びつけ…
摩耶観光ホテル跡地に限らず、地元の名所を世界の遺跡や遺産と結びつけ、観光地化を目指す自治体は増えている。
兵庫県内では、晩秋に雲海が広がる景色が人気で、「天空の城」と呼ばれる竹田城跡(同県朝来市)が有名だ。
インターネット上では南米のインカ帝国の遺跡になぞらえ、「日本のマチュピチュ」との書き込みがある。同市によると、年間2万人程度だった観光客は26年度には約60万人に増加。在日ペルー大使も現地を訪れ、「見事だ。よく似ている」と絶賛した。
岡山県総社市の「鬼(き)ノ城」もネット上で「日本の万里の長城」と紹介され、まちおこしに活用している。
クラウドファンディングの動きも
「人工的に造られた工場や建築物はいつか朽ちて自然に返る。廃虚には、怖いもの見たさもあるが、過去をノスタルジックに振り返ることができる魅力がある」。歴史遺産などを研究する近畿大理工学部の岡田昌彰教授はそう語る。
一方で、廃虚に不法侵入し、建物を壊したり落書きしたりする被害も近年多発している。
岡田教授は「不法侵入者がけがをした場合、安全性の問題から所有者の管理責任が問われてしまう。そのため価値ある遺構でも壊されてしまった例が後を絶たない」と話す。所有者が遺構の価値を正確に判断できずに撤去したケースもあり、「早急な決断は残念な結果を生むこともある。保存については自治体との連携が不可欠だ」とも指摘する。
その上で、摩耶観光ホテル跡地を「昭和初期の建築様式が色濃く残った価値ある建造物」とし、「公式にツアー化し、一定のルールを設けることで、不法侵入者の抑止につながることはある。ツアー化は文化財を守っていく一つの方法だ」と摩耶山再生の会の取り組みを評価した。
同会とは別に、神戸市内で同ホテル跡地を国登録の有形文化財にしようとする動きも出始めた。NPO法人「Jヘリテージ」(同市)などが、インターネットによるクラウドファンディングで保存活動に必要な資金を募っている。
廃虚マニアを中心に今や人気スポットになった「神戸のマヤ遺跡」。当然ながら本物の「マヤ遺跡」に歴史的な価値では及ばないが、発想力一つでユニークな観光地として国内外に売り出せるというモデルケースといえそうだ。
http://www.sankei.com/west/news/170809/wst1708090003-n1.html
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( ´・д・) ヘェー
2017.8.9 11:00更新
【関西の議論】
廃虚マニアが熱視線「神戸のマヤ遺跡」 ツアー大ウケ、ネット募集1分以内にチケット完売
摩耶観光ホテル跡地などを巡る「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」。「ようやく来られて夢のようだ」と涙を浮かべる廃虚マニアの若者も=神戸市灘区(摩耶山再生の会提供)
神戸市灘区の摩耶(まや)山中にたたずむ廃虚の摩耶観光ホテル跡地が人気を集めている。地元のまちおこし団体が「不法侵入者の撃退対策」として、廃虚を「神戸のマヤ遺跡」と名付けてツアーを企画したところ、廃虚マニアをはじめ、香港や台湾など海外からの観光客も参加する人気スポットに一変したのだ。なぜ人は廃虚に引きつけられるのだろうか。(木下未希)
「軍艦ホテル」…台湾や香港からも
摩耶観光ホテルは昭和4年に開業した「摩耶山温泉ホテル」が前身。先の大戦の影響で営業を休止したが、摩耶ケーブルの整備に伴い36年に摩耶観光ホテルとして復活した。外観が船の艦橋のように見えることから「軍艦ホテル」とも呼ばれたという。しかし平成5年に経営難で廃業し、7年の阪神大震災以降は立ち入り禁止となり、その後は荒れ果てたままだった。
廃虚ツアー「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」は摩耶周辺の活性化を目指す地元の「摩耶山再生の会」が主催している。
摩耶ケーブルと摩耶ロープウエーを乗り継ぎ、山頂付近の星の駅から約1・2キロの山道を歩いて下る。火災で焼失した旧「天上寺」や摩耶観光ホテル跡地など計15の遺跡や廃虚を巡る行程だ。
今年3月から月1回のペースで開催。定員は20人限定で、インターネット上で募集する。参加費は1770円。同会事務局長の慈(うつみ)憲一さん(51)によると、初回の受け付け開始時には多くの人が同時に参加ボタンを押し、サーバーがダウンした。その後の募集でも1分以内にチケットが売り切れる人気ぶり。参加者も20~60代と幅広く、中にはインターネットで「神戸のマヤ遺跡」と紹介されたホームページを見た台湾や香港からの参加もあるという。
今春に行われたツアー当日、参加者たちは同会メンバーの引率を受け、山頂から山道を下った。約1時間半後、生い茂る草木の合間から突然、目の前に巨大な廃虚が姿を現した。はがれた壁、ガラスのない窓、足下に散乱したがれき…。山中にひっそりとたたずむ姿が不気味な雰囲気を醸し出している。
感想もさまざまだ。「昔泊まったことがある。懐かしい」と話す高齢者もいれば、自称廃虚マニアの若者は「ずっと来たかった。ようやく現場に来られて夢のようだ」と涙を浮かべた。
きっかけは「不法侵入」
なぜ、ツアーを企画したのか。
摩耶山再生の会の慈さんは平成27年、摩耶観光ホテル跡地の所有者から「廃虚マニアの不法侵入が後を絶たない。このままでは事故が起こる」という悩みを打ち明けられた。
跡地には多くの廃虚マニアが訪れ、サバイバルゲームを楽しむ人や、コスプレ姿でろうそくを手に記念撮影する若者らがインターネット上で写真や動画をアップ。壁には落書きがあり、揚げ句には遭難者も出て、警察などが捜索を行う騒ぎも起こったという。
所有者は「壊してしまおう」と考えたが、撤去工事の見積もり費用が5億~6億円と高額に。頭を抱える所有者の話を聞いて、慈さんはひらめいた。
「逆に廃虚ツアーを行うことで、不法侵入者が減るのでは。企画が当たれば観光資源にもなる」と。
もともと同会は23年、摩耶山を多くの人が訪れる山に再生する目的で結成。山上でフリーマーケットを開くなど摩耶山への観光客誘致を進め、摩耶ケーブルや摩耶ロープウエーの利用者増と地元の活性化を進めてきた。
両者の利害が一致し、廃虚ツアーの企画が一気に進んだ。山中に点在する遺産付近の道や階段を改めて整備し、廃虚ブームの〝火付け役〟となった長崎県の「軍艦島」も視察。摩耶ロープウエーの虹の駅に山中の遺跡の歴史を解説した写真パネルを展示した。
摩耶山中にある廃虚ということで、ツアーのタイトルは中南米のマヤ遺跡にかけた「神戸のマヤ遺跡」と命名した。ツアーは口コミやネットで話題を呼び、開始以降は不法侵入者が減った。平日の摩耶ケーブルの利用者増にもつながった。
世界の遺跡と結びつけ…
摩耶観光ホテル跡地に限らず、地元の名所を世界の遺跡や遺産と結びつけ、観光地化を目指す自治体は増えている。
兵庫県内では、晩秋に雲海が広がる景色が人気で、「天空の城」と呼ばれる竹田城跡(同県朝来市)が有名だ。
インターネット上では南米のインカ帝国の遺跡になぞらえ、「日本のマチュピチュ」との書き込みがある。同市によると、年間2万人程度だった観光客は26年度には約60万人に増加。在日ペルー大使も現地を訪れ、「見事だ。よく似ている」と絶賛した。
岡山県総社市の「鬼(き)ノ城」もネット上で「日本の万里の長城」と紹介され、まちおこしに活用している。
クラウドファンディングの動きも
「人工的に造られた工場や建築物はいつか朽ちて自然に返る。廃虚には、怖いもの見たさもあるが、過去をノスタルジックに振り返ることができる魅力がある」。歴史遺産などを研究する近畿大理工学部の岡田昌彰教授はそう語る。
一方で、廃虚に不法侵入し、建物を壊したり落書きしたりする被害も近年多発している。
岡田教授は「不法侵入者がけがをした場合、安全性の問題から所有者の管理責任が問われてしまう。そのため価値ある遺構でも壊されてしまった例が後を絶たない」と話す。所有者が遺構の価値を正確に判断できずに撤去したケースもあり、「早急な決断は残念な結果を生むこともある。保存については自治体との連携が不可欠だ」とも指摘する。
その上で、摩耶観光ホテル跡地を「昭和初期の建築様式が色濃く残った価値ある建造物」とし、「公式にツアー化し、一定のルールを設けることで、不法侵入者の抑止につながることはある。ツアー化は文化財を守っていく一つの方法だ」と摩耶山再生の会の取り組みを評価した。
同会とは別に、神戸市内で同ホテル跡地を国登録の有形文化財にしようとする動きも出始めた。NPO法人「Jヘリテージ」(同市)などが、インターネットによるクラウドファンディングで保存活動に必要な資金を募っている。
廃虚マニアを中心に今や人気スポットになった「神戸のマヤ遺跡」。当然ながら本物の「マヤ遺跡」に歴史的な価値では及ばないが、発想力一つでユニークな観光地として国内外に売り出せるというモデルケースといえそうだ。
http://www.sankei.com/west/news/170809/wst1708090003-n1.html
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