冨樫純一（大東文化大学） 日

当初は「二人っきりの時は〜」というかなり厳密な条件がついていたのだが、ツ ンツンとデレデレの落差が魅力になっているキャラ全般をくくる概念としてあまり にも便利なことばだったため、マニアたちに浸透する間にだんだんとしばりがゆる くなっていき、現在では「外面ツン内面デレ」の状態ギャップ表¥現と、「ツンから デレ」への時間推移の表¥現をひっくるめた用語として使われている。

【墜武者的所感】本論ではそこまで語られていませんが…

【女役】女方（おんながた　女形）

1. 傾城（けいせい）華やかで艶のある遊女
2. 片外し（かたはずし）位の高い御殿女中や武家女房など
3. 女武道（おんなぶどう）男まさりの武芸の腕をもつ女
4. 花車方（かしゃがた）訳知りの花街の仲居や茶屋女房
5. 世話女房（せわにょうぼう）世話物に出る女房役
6. 娘方（むすめがた）若い振袖姿の姫や町娘
7. 悪婆（あくば）年増の美しい毒婦(20歳代後半)

 老け役

1. 【男役】老人、親仁役（おやじやく）
2. 【女役】老婆

 子役

では、具体的にその相違点について見ていく事にしましょう。

1. 「役割語」「役割概念」「役柄表¥現」という概念との違いを強調する意味でここでは「役柄概念」と「役柄表¥現」という言葉を使う事にする。
   
   「役柄区分」と従来の２基準（「役割語」と「役割表¥現」）の関係
   
   ＊「御嬢様言葉」に対して「書生言葉」は今日では「ホームズ語」として知られる。
    　分類も「御嬢様語」と同じ「役割語＝役柄表¥現」集合内ではなかろうか。




2. 「役柄概念」の「役柄概念」に対する最大の識別点は、何よりもまずそれが「消費者側の意識区分」である事、そしてそれ故に「飯の種」あるいは「シノギ」今日風に言うなら「ビジネスシード」だという事である。そして江戸時代の役者の家系にとって、それをどの範囲でどういう形で「家芸」として抑えていくかは重要な生存戦略の一環を為していた訳である。




3. この「ビジネスシード」でもあるという特徴は「役割表¥現」にも当てはまる。その中には「荒事を演じる際に『三本刀』を差して良いのは市川家のみ」といった具合に家属性とし存在するものもあれば「『赤姫』と言えば一般に緋綸子や緋縮緬に金糸銀糸で花筏や桜に霞みなどの花模様を縫い取りした振袖を着るのが決まりだが、恋に生きる女の一念で『狐火の奇蹟（諏訪明神の狐の霊力で凍った諏訪湖の氷の上を渡る）』を起こす『雪姫』に関してだけは鴇色（ときいろ、淡紅色）や浅葱色（あさぎいろ）を着ても良い」といった役柄の属性として存在するものもあった。またさらに「当時の消費状況に対応した結果＝現在の価値観ではそれに如何なる意義があったか理解に苦しむもの」というのもあって「子役は演技を一切せず台詞も棒読みにしなければならない」「姫役は要所では『人形振り（ロボットの様なぎこちない動作）』をする」などがこれに当たる。




4. こうしてみると「萌え表¥現」だの「ツンデレ表¥現」だのは、確かに「役割語」ではないかもしれないが「ビジネスシード」という側面も備えているが故に「役柄表¥現」の条件を満たし得るという考え方が立派に通用しそうである。また逆に、当時の文献の中に「老人語」や「御姫様語」といった「役割語」の形成過程がちゃんと記録されてないという事は、あるいはそれが「役柄表¥現」としての要件を満たしていなかったという事を意味するのかもしれない。今後の研究が待たれる所である。




5. こうした膨大な『御約束』を供給側と観客側が共有し、それとの差別化や現在の風俗や時事の反映に「趣向＝新機軸」を求めていくのが当時の歌舞伎世界だった訳である。ただしそれには固有の制約もあった。例えば社会地位向上を目指す江戸歌舞伎界にとって本来は能¥の演目だった「勧進帳」が最初江戸の観客に拒絶されたのは、既に別の弁慶像が確立済みでそれに対する『御約束破り』が甚だし過ぎたからである。鑑賞に際してかかる膨大な量の『教養』を要求する様式は、特定の領域において鑑賞者の感受性を鋭くさせるだけでなく、その他の領域で「良い物を素直に認める」感性を鈍くするという反作用を伴う両刃の剣であるという意識を日本人はもう少し強く持った方が良いのかも知れない。

【追記002】「役柄概念」と「悪」

1. これまで見てきた様に既に「役柄概念」はその中に「消費者の価値判断」に基づく「勧善懲悪観」を含んでいる。ある意味、如何なる「善行」や「悪行」を為すかまで「役柄表¥現」の一種として織り込み済みなのである。




2. そして、それとはまた別に「趣向」として追加される当時なりの政道風刺や当世風俗人情の反映が見られるが、それは「その作品内世界での御約束」特に上述の「キャラクター属性に盛り込み済みの勧善懲悪観」を絵筆として描かれる。つまり、当時の感覚に従ってそれを分離し「趣向」だけを取り出す作業を経た後でないとそれが何か把握する事さえ出来ないのである。その詳細についてはまた別途述べる事にする。