2023年度の春闘は30年ぶりという3.58%の賃上げで労使の合意を見た。一方、23年度の最低賃金(最賃)引き上げの目安額を決める中央最低賃金審議会(厚労省諮問機関)の議論が、6月30日にスタートした。
22年度の改定では全国平均時給は961円と過去最高の31円、3.3%のアップだったが、岸田首相はこの春から「最低賃金1000円の達成」を繰り返してきた。最賃額は審議会が出した目安額を受けて都道府県で審議され、10月ごろ適用されることになる。春闘の賃上げは最賃の引き上げにどう影響をもたらすのか。
最賃は最低賃金法に基づく時給で、パートやアルバイト、契約社員などの非正規労働者に支払われる賃金の最低額。賃金問題に詳しい都留文科大学名誉教授の後藤道夫氏が言う。
「大企業中心の春闘に比べ最賃はこれまで関心が薄かったのですが、ここ数年、ベースが変わったことで一般の関心も高まってきました。しかし日本の最賃はこれまで抑えられ、今も先進国の中で間違いなく最低レベルです」
20年前には日本の半分だった韓国の最賃は、今年の最低賃金委員会で金額は9620ウオン(日本円で約1050円=7月17日)、現行比5%の引き上げが決まり、日本は大きく水をあけられているのだ。日本の最賃が上がらない理由を後藤氏が説明する。
■日本の最賃は労働者の最低賃金額ではなかった
「労使交渉で決まる賃金と最賃の関係は断ち切られている状態です。欧米の最賃は産業別なら一番低い企業の7割、8割という比率で決まり、企業が上がれば対象の労働者の賃金も上がってきました。ところが日本の最賃は全く異なります。日本の場合、夫や父親が稼ぐ収入があるため、家計を助ける『家計補助』と考えられ抑えられてきたんです」
賃金の低い労働者の生活安定のため、賃金の最低額を保障するはずの最賃が、「家計補助」になっていたのだ。この考えが変わり始めたのは第1次安倍政権時代の最低賃金法の改正(07年)。1999年から上がっても5円だった賃金が同年から10円台、20円台、そして昨年過去最高の31円上がった。
「給与が最賃の1.3倍までを低賃金労働者とみて、07年に最賃の1.3倍未満で働く労働者の割合は16%でしたが、21年には31%と急増しています。これは給与が下がって最賃が上がったための現象ですが、男性の賃金がこの20年で実質大幅ダウンし、また人手不足から非正規労働者が増えたことが背景です」(後藤氏)
女性の働き方が変わり、親からの仕送りがなくなった学生も増え、学生のアルバイト収入は賃金になるなど、もはや最賃は「家計補助」ではなく、家庭に不可欠になってきたのである。
最賃が現在最も高いのは東京で1072円、大阪1023円。一方、最も低いのは青森、秋田、鹿児島、沖縄など10県が853円と、都市部と地方の賃金格差が広がっているのが現実だ。
地域間格差の是正を含め、この8月の審議会の引き上げ目安額が注目される。
(ジャーナリスト・木野活明)
2023年度の春闘は30年ぶりという3.58%の賃上げで労使の合意を見た。一方、23年度の最低賃金(最賃)引き上げの目安額を決める中央最低賃金審議会(厚労省諮問機関)の議論が、6月30日にスタートした。
22年度の改定では全国平均時給は961円と過去最高の31円、3.3%のアップだったが、岸田首相はこの春から「最低賃金1000円の達成」を繰り返してきた。最賃額は審議会が出した目安額を受けて都道府県で審議され、10月ごろ適用されることになる。春闘の賃上げは最賃の引き上げにどう影響をもたらすのか。
最賃は最低賃金法に基づく時給で、パートやアルバイト、契約社員などの非正規労働者に支払われる賃金の最低額。賃金問題に詳しい都留文科大学名誉教授の後藤道夫氏が言う。
「大企業中心の春闘に比べ最賃はこれまで関心が薄かったのですが、ここ数年、ベースが変わったことで一般の関心も高まってきました。しかし日本の最賃はこれまで抑えられ、今も先進国の中で間違いなく最低レベルです」
20年前には日本の半分だった韓国の最賃は、今年の最低賃金委員会で金額は9620ウオン(日本円で約1050円=7月17日)、現行比5%の引き上げが決まり、日本は大きく水をあけられているのだ。日本の最賃が上がらない理由を後藤氏が説明する。
■日本の最賃は労働者の最低賃金額ではなかった
「労使交渉で決まる賃金と最賃の関係は断ち切られている状態です。欧米の最賃は産業別なら一番低い企業の7割、8割という比率で決まり、企業が上がれば対象の労働者の賃金も上がってきました。ところが日本の最賃は全く異なります。日本の場合、夫や父親が稼ぐ収入があるため、家計を助ける『家計補助』と考えられ抑えられてきたんです」
賃金の低い労働者の生活安定のため、賃金の最低額を保障するはずの最賃が、「家計補助」になっていたのだ。この考えが変わり始めたのは第1次安倍政権時代の最低賃金法の改正(07年)。1999年から上がっても5円だった賃金が同年から10円台、20円台、そして昨年過去最高の31円上がった。
「給与が最賃の1.3倍までを低賃金労働者とみて、07年に最賃の1.3倍未満で働く労働者の割合は16%でしたが、21年には31%と急増しています。これは給与が下がって最賃が上がったための現象ですが、男性の賃金がこの20年で実質大幅ダウンし、また人手不足から非正規労働者が増えたことが背景です」(後藤氏)
女性の働き方が変わり、親からの仕送りがなくなった学生も増え、学生のアルバイト収入は賃金になるなど、もはや最賃は「家計補助」ではなく、家庭に不可欠になってきたのである。
最賃が現在最も高いのは東京で1072円、大阪1023円。一方、最も低いのは青森、秋田、鹿児島、沖縄など10県が853円と、都市部と地方の賃金格差が広がっているのが現実だ。
地域間格差の是正を含め、この8月の審議会の引き上げ目安額が注目される。
(ジャーナリスト・木野活明)