「ドイツは本当に西側の仲間なのか」英ウクライナ特使
Boris Johnson"s Ukraine Trade Envoy Says Germany “Not Totally Our Friend”
2022年4月28日(木)11時01分
デービッド・ブレナン
メルケルは東独出身だからプーチンを信用し過ぎたのか?(2020年1月、ベルリン) Michele Tantussi-REUTERS
<東独出身のメルケル時代から長年対ロ融和政策を続けた挙句、対ウクライナ武器供与にもロシア産エネルギーからの脱却にも及び腰のドイツは、「再び歴史の間違った側に踏み出そうとしている」と、西側同盟国からの不信が募っている>
ボリス・ジョンソン英首相のウクライナ通商特使に任命されたキャサリン・マイヤー貴族院議員(保守党)は、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの支援をためらうと歴史の間違った側に立つ恐れがある、とドイツの指導者たちに警告した。
マイヤーは、4月25日にロンドンのウェストミンスター宮殿で行われた地政学評議会のイベントで講演し、ドイツ政府を批判。ドイツはロシアのウクライナ侵攻後、国防費を大幅に増額すると発表したが、EUの対ロシア制裁強化への参加やウクライナへの重火器供与を躊躇しているところを見ると、本当に歴史的な方向転換をしたのかどうか「疑わしい」と語った。
このイベントは、黒海の安全保障に関する地政学評議会の報告書の発表にあわせて開かれた。報告書の趣旨は、ロシアの侵略とそれによる地域の不安定化に直面しているNATO加盟国に対し、地域の同盟国との関わりの強化を求めるものだった
マイヤーはドイツ出身だが、ドイツがウクライナへの支援強化をためらっていることについて、出席者にこう語った。「ドイツはこの点で、またしても歴史の間違った側に足を踏み出しているのではないかと思う」
この翌日、ドイツのラムシュタイン米軍基地でNATO諸国など40カ国で行われたウクライナ支援会議でドイツ政府は戦後初めて、ウクライナに大型兵器を供与すると発表した。戦闘機やヘリコプターも攻撃できる自走式の「対空戦車」だ。歴史的転換にあと一歩踏み出してみせた。
ドイツへの疑惑と批判
過去数週間、ショルツはウクライナに対して戦車など重火器の提供を拒み、非難を浴びてきた。このような兵器の供与は、NATOとロシアの直接衝突という受け入れがたいリスクをはらんでいると、ショルツは主張した。
ドイツの国内企業は、フランス、イタリアの企業とともに、2014年のクリミア併合後にロシアに科されたEUの武器禁輸措置の抜け穴を突いてロシアに武器を売っていたという報道もあり、この点でもドイツは批判されている。
「一方ではドイツがロシアに武器を売っていたことが明らかになり、他方ではいまだにロシアからかなりの量の石油を買っている。ドイツはロシアへの依存度を下げることはできない、経済的に破綻してしまうとショルツは言っている」と、マイヤーは言う。
「それは国防予算を増やすという、ごく最近の発言と完全に矛盾している。あれはドイツにとってかなり重要な発言だった」
ドイツは以前から、東欧の国々で進む反ロシア化に対抗する存在だった。ヨーロッパにおけるドイツの一部の同盟国は長年、ドイツとロシアの経済的な深い結びつき、とくにドイツがロシアから輸入するエネルギーに依存していることに懸念を抱いてきた。この依存関係が、ロシアに対するさらなる制裁を阻んでいる。
とはいえ、ロシアがウクライナに侵攻したことで、ドイツはロシアとの関係に歴史的な再評価をせざるをえなくなった。今年2月、今回の侵攻は「新しい時代」の始まりだとショルツは述べた。
数十年にわたる対ロシア融和政策がすぐに放棄されることをドイツの同盟国は期待したが、そうはいかなかった。邪魔をしたのは、ドイツ政財界のエリートたちのロシアとの深い結びつきだ。
ショルツは、ドイツがロシア産化石燃料への依存から離脱するためには時間が必要だと述べた。EUのロシア産石炭輸入禁止はドイツの圧力で1カ月先延ばしになり、8月に実施する予定だ。ドイツの輸入量の半分を占めるロシア産天然ガスに関しては、完全な輸入停止は2024年半ばになる見通しだ。
直ちに禁輸措置をとれば、数十万人の雇用を犠牲にする深刻な不況を招きかねないと、ショルツは繰り返している。
EUは現在、ロシア産石油の輸入制限を含む第6弾の制裁を検討している。躊躇しているのはドイツだけではない。ハンガリー、イタリア、オランダなど他のEU諸国も、ロシア産化石燃料の輸入禁止には慎重な姿勢をとっている。
ロシアは27日、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を止め、一段と圧力を強めている。
問われる西側の覚悟
「私が気になるのは、西側諸国の結束がいつまで続くかということだ」と、マイヤーは25日の講演で語った。
「すでに亀裂は見え始めている。ロシアが戦争の速度を上げれば、ウクライナへの支援を強化しなければならないという西側への圧力は高まっていくだろう。ウクライナへの軍事支援はもうすぐ、ロシアと直接戦争をしないという西側の方針が成り立たないほどのレベルになってしまう」
「そこで2つの大きな疑問がある。われわれにはロシアとの全面戦争にどこまで踏み込む覚悟があるか?そして、どれだけの経済的苦痛を耐える覚悟があるのか?この答えが、西側諸国の結束を左右すると思う」
「ウラジーミル・プーチンが勝利を収めれば、NATOが中立を唱え、アメリカ軍が不在のなかでは、ロシアがヨーロッパ全体を勢力圏におさめる道を歩むことになる」と、マイヤーは主張した。
アンゲラ・メルケル前首相とその政権は、対ロシア政策での失敗を厳しく批判されている。16年間に及ぶメルケル政権下で、2本の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」など、ロシアとの共同事業が進められた。またメルケルは、2008年にウクライナのNATO加盟を阻止する側にも加わっていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月初め、キーウ(キエフ)近郊の町での虐殺をロシア軍の仕業だと述べ、ロシア側がそれを否定していることに言及した。そして「メルケル前首相とニコラ・サルコジ元フランス大統領を虐殺が起きたブチャに招待する。ロシアに譲歩する政策がこの14年間で何をもたらしたかを見てもらいたい」と語った。
AFP通信によれば、ゼレンスキーのメッセージに対し、メルケルの報道担当者は「ブカレストで行われた2008年のNATO首脳会議においてウクライナのNATO加盟を阻止した自身の判断を今も支持している」という声明を出した。
さらに「ブチャをはじめウクライナ各地で発覚した残虐行為を考慮し、ウクライナの側に立ち、ロシアの野蛮さとウクライナに対する戦争を終わらせるための各国政府と国際社会によるすべての努力を、メルケル前首相は完全に支持する」と、付け加えた。
だがメルケル時代の他の政府高官たちは、もっと深い悔恨の意を表している。メルケル政権の外相を務めていた社会民主党のフランクワルター・シュタインマイヤー元大統領は、長年にわたってロシアとの融和を主張してきたことについて「自分は、他の人と同様、間違っていた」と語った。
ロシア依存の責任
ロシアはユーラシア大陸の協力関係の中で信頼され、評価される存在になりうるとドイツは希望を抱いていたが、それは間違いだった。そのことに、メルケル首相は大きな責任がある、とマイヤーは述べた。
「メルケル首相は東ドイツ出身で、ロシアに対する姿勢がわれわれの立場と大きく異なっていた」と、マイヤーは指摘した。「ドイツが多くの点でロシアに依存する態勢をとったことについて、メルケルは非難されるかもしれない。そう、ドイツは現時点で、完全にわれわれの仲間とはいえないと思う」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/04/post-98589.php
https://news.yahoo.co.jp/articles/be22f3f81964057b1d0a8741839f70a28b8d20a8?page=1
Boris Johnson"s Ukraine Trade Envoy Says Germany “Not Totally Our Friend”
BY DAVID BRENNAN ON 4/26/22 AT 10:39 AM EDT
https://www.newsweek.com/boris-johnson-ukraine-trade-germany-russia-1701055
「ドイツは本当に西側の仲間なのか」英ウクライナ特使
Boris Johnson"s Ukraine Trade Envoy Says Germany "Not Totally Our Friend"
2022年4月28日(木)11時01分
デービッド・ブレナン
メルケルは東独出身だからプーチンを信用し過ぎたのか?(2020年1月、ベルリン) Michele Tantussi-REUTERS
<東独出身のメルケル時代から長年対ロ融和政策を続けた挙句、対ウクライナ武器供与にもロシア産エネルギーからの脱却にも及び腰のドイツは、「再び歴史の間違った側に踏み出そうとしている」と、西側同盟国からの不信が募っている>
ボリス・ジョンソン英首相のウクライナ通商特使に任命されたキャサリン・マイヤー貴族院議員(保守党)は、ロシアの軍事侵攻が続くウクライナへの支援をためらうと歴史の間違った側に立つ恐れがある、とドイツの指導者たちに警告した。
マイヤーは、4月25日にロンドンのウェストミンスター宮殿で行われた地政学評議会のイベントで講演し、ドイツ政府を批判。ドイツはロシアのウクライナ侵攻後、国防費を大幅に増額すると発表したが、EUの対ロシア制裁強化への参加やウクライナへの重火器供与を躊躇しているところを見ると、本当に歴史的な方向転換をしたのかどうか「疑わしい」と語った。
このイベントは、黒海の安全保障に関する地政学評議会の報告書の発表にあわせて開かれた。報告書の趣旨は、ロシアの侵略とそれによる地域の不安定化に直面しているNATO加盟国に対し、地域の同盟国との関わりの強化を求めるものだった
マイヤーはドイツ出身だが、ドイツがウクライナへの支援強化をためらっていることについて、出席者にこう語った。「ドイツはこの点で、またしても歴史の間違った側に足を踏み出しているのではないかと思う」
この翌日、ドイツのラムシュタイン米軍基地でNATO諸国など40カ国で行われたウクライナ支援会議でドイツ政府は戦後初めて、ウクライナに大型兵器を供与すると発表した。戦闘機やヘリコプターも攻撃できる自走式の「対空戦車」だ。歴史的転換にあと一歩踏み出してみせた。
ドイツへの疑惑と批判
過去数週間、ショルツはウクライナに対して戦車など重火器の提供を拒み、非難を浴びてきた。このような兵器の供与は、NATOとロシアの直接衝突という受け入れがたいリスクをはらんでいると、ショルツは主張した。
ドイツの国内企業は、フランス、イタリアの企業とともに、2014年のクリミア併合後にロシアに科されたEUの武器禁輸措置の抜け穴を突いてロシアに武器を売っていたという報道もあり、この点でもドイツは批判されている。
「一方ではドイツがロシアに武器を売っていたことが明らかになり、他方ではいまだにロシアからかなりの量の石油を買っている。ドイツはロシアへの依存度を下げることはできない、経済的に破綻してしまうとショルツは言っている」と、マイヤーは言う。
「それは国防予算を増やすという、ごく最近の発言と完全に矛盾している。あれはドイツにとってかなり重要な発言だった」
ドイツは以前から、東欧の国々で進む反ロシア化に対抗する存在だった。ヨーロッパにおけるドイツの一部の同盟国は長年、ドイツとロシアの経済的な深い結びつき、とくにドイツがロシアから輸入するエネルギーに依存していることに懸念を抱いてきた。この依存関係が、ロシアに対するさらなる制裁を阻んでいる。
とはいえ、ロシアがウクライナに侵攻したことで、ドイツはロシアとの関係に歴史的な再評価をせざるをえなくなった。今年2月、今回の侵攻は「新しい時代」の始まりだとショルツは述べた。
数十年にわたる対ロシア融和政策がすぐに放棄されることをドイツの同盟国は期待したが、そうはいかなかった。邪魔をしたのは、ドイツ政財界のエリートたちのロシアとの深い結びつきだ。
ショルツは、ドイツがロシア産化石燃料への依存から離脱するためには時間が必要だと述べた。EUのロシア産石炭輸入禁止はドイツの圧力で1カ月先延ばしになり、8月に実施する予定だ。ドイツの輸入量の半分を占めるロシア産天然ガスに関しては、完全な輸入停止は2024年半ばになる見通しだ。
直ちに禁輸措置をとれば、数十万人の雇用を犠牲にする深刻な不況を招きかねないと、ショルツは繰り返している。
EUは現在、ロシア産石油の輸入制限を含む第6弾の制裁を検討している。躊躇しているのはドイツだけではない。ハンガリー、イタリア、オランダなど他のEU諸国も、ロシア産化石燃料の輸入禁止には慎重な姿勢をとっている。
ロシアは27日、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給を止め、一段と圧力を強めている。
問われる西側の覚悟
「私が気になるのは、西側諸国の結束がいつまで続くかということだ」と、マイヤーは25日の講演で語った。
「すでに亀裂は見え始めている。ロシアが戦争の速度を上げれば、ウクライナへの支援を強化しなければならないという西側への圧力は高まっていくだろう。ウクライナへの軍事支援はもうすぐ、ロシアと直接戦争をしないという西側の方針が成り立たないほどのレベルになってしまう」
「そこで2つの大きな疑問がある。われわれにはロシアとの全面戦争にどこまで踏み込む覚悟があるか?そして、どれだけの経済的苦痛を耐える覚悟があるのか?この答えが、西側諸国の結束を左右すると思う」
「ウラジーミル・プーチンが勝利を収めれば、NATOが中立を唱え、アメリカ軍が不在のなかでは、ロシアがヨーロッパ全体を勢力圏におさめる道を歩むことになる」と、マイヤーは主張した。
アンゲラ・メルケル前首相とその政権は、対ロシア政策での失敗を厳しく批判されている。16年間に及ぶメルケル政権下で、2本の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」など、ロシアとの共同事業が進められた。またメルケルは、2008年にウクライナのNATO加盟を阻止する側にも加わっていた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月初め、キーウ(キエフ)近郊の町での虐殺をロシア軍の仕業だと述べ、ロシア側がそれを否定していることに言及した。そして「メルケル前首相とニコラ・サルコジ元フランス大統領を虐殺が起きたブチャに招待する。ロシアに譲歩する政策がこの14年間で何をもたらしたかを見てもらいたい」と語った。
AFP通信によれば、ゼレンスキーのメッセージに対し、メルケルの報道担当者は「ブカレストで行われた2008年のNATO首脳会議においてウクライナのNATO加盟を阻止した自身の判断を今も支持している」という声明を出した。
さらに「ブチャをはじめウクライナ各地で発覚した残虐行為を考慮し、ウクライナの側に立ち、ロシアの野蛮さとウクライナに対する戦争を終わらせるための各国政府と国際社会によるすべての努力を、メルケル前首相は完全に支持する」と、付け加えた。
だがメルケル時代の他の政府高官たちは、もっと深い悔恨の意を表している。メルケル政権の外相を務めていた社会民主党のフランクワルター・シュタインマイヤー元大統領は、長年にわたってロシアとの融和を主張してきたことについて「自分は、他の人と同様、間違っていた」と語った。
ロシア依存の責任
ロシアはユーラシア大陸の協力関係の中で信頼され、評価される存在になりうるとドイツは希望を抱いていたが、それは間違いだった。そのことに、メルケル首相は大きな責任がある、とマイヤーは述べた。
「メルケル首相は東ドイツ出身で、ロシアに対する姿勢がわれわれの立場と大きく異なっていた」と、マイヤーは指摘した。「ドイツが多くの点でロシアに依存する態勢をとったことについて、メルケルは非難されるかもしれない。そう、ドイツは現時点で、完全にわれわれの仲間とはいえないと思う」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/04/post-98589.php
https://news.yahoo.co.jp/articles/be22f3f81964057b1d0a8741839f70a28b8d20a8?page=1
Boris Johnson"s Ukraine Trade Envoy Says Germany "Not Totally Our Friend"
BY DAVID BRENNAN ON 4/26/22 AT 10:39 AM EDT
https://www.newsweek.com/boris-johnson-ukraine-trade-germany-russia-1701055