障害者ホーム転落し 東京メトロのホームドア導入はなぜ路線によって格差があるのか?
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東京メトロ・銀座線の青山一丁目駅(東京都港区)のホームで8月15日、盲導犬を連れた視覚障害者の会社員、品田直人さん(55)=東京都世田谷 区=が線路に転落してし亡する悲惨な事故が起きた。鉄道駅のホームは「欄干のない橋」とも呼ばれ、視覚障害者団体などがホームドアの設置を促してきたが、 高いコストや乗り入れ線の車両規格の違いなどから全駅設置に向けた歩みは遅々たるものだ。銀座線は“日本最古の地下鉄”という名誉ある弱点があり導入が遅 れていた。銀座線に限らず、東京メトロではすでに4路線で全駅に設置している半面で、東西線と半蔵門線は着工のめどすら立っていない。それぞれの路線が抱 える事情とは…
■小さなトンネル…狭すぎるホーム
事故のおきた銀座線で、ホームドアが設置されているのは上野駅だけ。導入が遅れている理由について、東京メトロ広報は「銀座線はホームが狭く、ホームドアの設置が難しい」と説明する。
銀座線は、浅草−上野間が昭和2年に開業した日本初の地下鉄だ。当時は現在と比べて、地下鉄のトンネルを掘るのに時間がかかる。できるだけ小さいトンネル にしたため、ホームが狭く、ホームドアを設置しにくい事情があるという。また、当時はホームドアという発想もなかったので、ホーム自体の強度も十分でな く、補強工事も大がかりなものになる。当然、費用もかさむというわけだ。
とはいえ、国土交通省や障害者団体の要請もあり、東京メトロは 着々とホームドアの導入を進めてきた。銀座線も平成29年度に導入工事を始める予定となっている。約90億円を投入し、駅全体の大規模工事が続く渋谷駅と 新橋駅を除き、30年度に全面導入する計画だ。33年度には、両駅でも整備される。
「初めて来たが、よくこれまで人が落ちなかったというの が正直な印象だ」。青山一丁目駅の転落事故を受けて18日に同駅を視察した「東京視覚障害者協会」役員の山城完治さん(60)は率直な印象を語った。ホー ムから転落し列車にはねられた品田さん。同駅のホームドア整備があと2年早ければ、悲惨な事故は起きなかったはずだ。
■ネックは、導入コストと乗り入れ鉄道会社との調整
「第一に費用面。次に技術面の問題がある」。国交省鉄道局の担当者はホームドア導入のネックとなっている事情を説明する。
ホームドアの導入コストは1駅当たり数億円から十数億円。東京メトロによると、1路線あたり、総額で90〜100億円程度が必要になるという。
駅の構造にもよるが、重い装置に耐えられるように大規模な工事をしなければならず、コストがかさむ。東京メトロ・東西線の九段下駅で現在、実証実験用に使っているホームドアは2両分だけで約5トンにもなる。
また、別会社と相互乗り入れをしている路線の車両はドアの数や位置などが異なるため、鉄道会社間での調整に時間が必要だ。さらに、列車の停止精度も考慮しなければならないという。
丸ノ内線は相互乗り入れがないため、20年に全駅でホームドアが導入された。一方、銀座線も同じく相互乗り入れがなかったにもかかわらず、“最古の地下鉄”の宿命にとらわれ、導入が遅れた。
■フルハイトタイプとハーフハイトタイプ
東京メトロの他の7路線のホームドア導入状況はどうなっているのか。
最も進んでいるのが、南北線だ。3年の一部開通当初から、同社で初めてホームドアを設置。天井近くまでスクリーンで覆われた「フルハイトタイプ」と呼ばれるホームドアだが、全線開通した12年から全駅に設置されている。
20年に全線開通した副都心線では、高さ130センチのハーフタイプが当初から全駅で整備されている。
このほか、全駅で整備されているのは有楽町線だ。東武東上線や西武池袋線と直通運転している上、5ドアと3ドアがあったが、6年開通と比較的新しい路線だったため、耐震工事が行き届いており、早めに対応できた。
■東西線と半蔵門線は「調整中」
逆に、全駅導入の見通しがはっきりしないのが、東西線と半蔵門線だ。来年度からいくつかの優先駅で整備し始めるが、全駅整備が完了する時期は決まっていな い。東西線はJR中央線と東葉高速線、半蔵門線は東急田園都市線と東武スカイツリーラインと相互乗り入れしており、鉄道会社間の調整に時間がかかっている という。
東西線では妙典駅で昨年3〜9月にホームドアを1つ設置し、実証実験を行った。列車が通過するときの風や振動に耐えられるか。客の誘導の妨げにならないかを確認した。九段下駅でも今年3月〜来年3月にかけ実験中だ。
半蔵門線では、実証実験は実施していないが、「東京五輪を控え、開催会場に近い駅から先行設置していく」(東京メトロ広報)という。
東武スカイツリーライン線と相互乗り入れする日比谷線は32〜34年度、小田急線とJR常磐線と相互乗り入れする千代田線は30〜32年度で全駅で整備する予定になっている。
■設置率47%…増え続ける転落事故
東京メトロ9路線の全179駅でホームドアが設置されているのは、47%にあたる85駅。東京都営地下鉄では約6割が整備済みだ。全国に目を転じると、1 日10万人以上が利用する約250駅のうち、約3割の77駅しかホームドアが設置されていない(今年3月末現在)。1日3000人以上が利用する全国約 3500駅では2割弱の665駅(昨年3月末現在)だ。
一方、視覚障害者の転落事故は後を絶たない。24年3月には、東武東上線の川越駅で男性が転落して列車にはねられし亡。23年1月にも、JR山手線の目白駅で男性が転落しした。
国交省の資料によると、視覚障害者がホームから転落した事故は21年度の38件から増え続け、24年度には92件に。26年度は80件だったが、5年前の 倍以上だ。視覚障害者以外の事故も合わせた全体では21年度の2442件から増加し続けており、26年度には3673件だった。
相次ぐ事 故を受け、国交省は23年度、1日に10万人以上が利用する駅のホームドア設置を鉄道各社に要請。3000人以上の駅でもホームドアか、ホームの内側と外 側が分かる点字ブロックの設置を求めた。ホームドアの設置費用の国と自治体で3割強ずつを負担する補助金制度もある。
青山一丁目駅の事故を受け、国交省は26日、鉄道事業者などからなる検討会を開催。銀座線のホームドア設置計画の前倒しなどについて話し合った。東京メトロは「より早期に着工できるよう努力したい」と前向きな姿勢を示している。
http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0828/san_160828_6140153342.html
障害者ホーム転落し 東京メトロのホームドア導入はなぜ路線によって格差があるのか?
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東京メトロ・銀座線の青山一丁目駅(東京都港区)のホームで8月15日、盲導犬を連れた視覚障害者の会社員、品田直人さん(55)=東京都世田谷 区=が線路に転落してし亡する悲惨な事故が起きた。鉄道駅のホームは「欄干のない橋」とも呼ばれ、視覚障害者団体などがホームドアの設置を促してきたが、 高いコストや乗り入れ線の車両規格の違いなどから全駅設置に向けた歩みは遅々たるものだ。銀座線は“日本最古の地下鉄”という名誉ある弱点があり導入が遅 れていた。銀座線に限らず、東京メトロではすでに4路線で全駅に設置している半面で、東西線と半蔵門線は着工のめどすら立っていない。それぞれの路線が抱 える事情とは…
■小さなトンネル…狭すぎるホーム
事故のおきた銀座線で、ホームドアが設置されているのは上野駅だけ。導入が遅れている理由について、東京メトロ広報は「銀座線はホームが狭く、ホームドアの設置が難しい」と説明する。
銀座線は、浅草−上野間が昭和2年に開業した日本初の地下鉄だ。当時は現在と比べて、地下鉄のトンネルを掘るのに時間がかかる。できるだけ小さいトンネル にしたため、ホームが狭く、ホームドアを設置しにくい事情があるという。また、当時はホームドアという発想もなかったので、ホーム自体の強度も十分でな く、補強工事も大がかりなものになる。当然、費用もかさむというわけだ。
とはいえ、国土交通省や障害者団体の要請もあり、東京メトロは 着々とホームドアの導入を進めてきた。銀座線も平成29年度に導入工事を始める予定となっている。約90億円を投入し、駅全体の大規模工事が続く渋谷駅と 新橋駅を除き、30年度に全面導入する計画だ。33年度には、両駅でも整備される。
「初めて来たが、よくこれまで人が落ちなかったというの が正直な印象だ」。青山一丁目駅の転落事故を受けて18日に同駅を視察した「東京視覚障害者協会」役員の山城完治さん(60)は率直な印象を語った。ホー ムから転落し列車にはねられた品田さん。同駅のホームドア整備があと2年早ければ、悲惨な事故は起きなかったはずだ。
■ネックは、導入コストと乗り入れ鉄道会社との調整
「第一に費用面。次に技術面の問題がある」。国交省鉄道局の担当者はホームドア導入のネックとなっている事情を説明する。
ホームドアの導入コストは1駅当たり数億円から十数億円。東京メトロによると、1路線あたり、総額で90〜100億円程度が必要になるという。
駅の構造にもよるが、重い装置に耐えられるように大規模な工事をしなければならず、コストがかさむ。東京メトロ・東西線の九段下駅で現在、実証実験用に使っているホームドアは2両分だけで約5トンにもなる。
また、別会社と相互乗り入れをしている路線の車両はドアの数や位置などが異なるため、鉄道会社間での調整に時間が必要だ。さらに、列車の停止精度も考慮しなければならないという。
丸ノ内線は相互乗り入れがないため、20年に全駅でホームドアが導入された。一方、銀座線も同じく相互乗り入れがなかったにもかかわらず、“最古の地下鉄”の宿命にとらわれ、導入が遅れた。
■フルハイトタイプとハーフハイトタイプ
東京メトロの他の7路線のホームドア導入状況はどうなっているのか。
最も進んでいるのが、南北線だ。3年の一部開通当初から、同社で初めてホームドアを設置。天井近くまでスクリーンで覆われた「フルハイトタイプ」と呼ばれるホームドアだが、全線開通した12年から全駅に設置されている。
20年に全線開通した副都心線では、高さ130センチのハーフタイプが当初から全駅で整備されている。
このほか、全駅で整備されているのは有楽町線だ。東武東上線や西武池袋線と直通運転している上、5ドアと3ドアがあったが、6年開通と比較的新しい路線だったため、耐震工事が行き届いており、早めに対応できた。
■東西線と半蔵門線は「調整中」
逆に、全駅導入の見通しがはっきりしないのが、東西線と半蔵門線だ。来年度からいくつかの優先駅で整備し始めるが、全駅整備が完了する時期は決まっていな い。東西線はJR中央線と東葉高速線、半蔵門線は東急田園都市線と東武スカイツリーラインと相互乗り入れしており、鉄道会社間の調整に時間がかかっている という。
東西線では妙典駅で昨年3〜9月にホームドアを1つ設置し、実証実験を行った。列車が通過するときの風や振動に耐えられるか。客の誘導の妨げにならないかを確認した。九段下駅でも今年3月〜来年3月にかけ実験中だ。
半蔵門線では、実証実験は実施していないが、「東京五輪を控え、開催会場に近い駅から先行設置していく」(東京メトロ広報)という。
東武スカイツリーライン線と相互乗り入れする日比谷線は32〜34年度、小田急線とJR常磐線と相互乗り入れする千代田線は30〜32年度で全駅で整備する予定になっている。
■設置率47%…増え続ける転落事故
東京メトロ9路線の全179駅でホームドアが設置されているのは、47%にあたる85駅。東京都営地下鉄では約6割が整備済みだ。全国に目を転じると、1 日10万人以上が利用する約250駅のうち、約3割の77駅しかホームドアが設置されていない(今年3月末現在)。1日3000人以上が利用する全国約 3500駅では2割弱の665駅(昨年3月末現在)だ。
一方、視覚障害者の転落事故は後を絶たない。24年3月には、東武東上線の川越駅で男性が転落して列車にはねられし亡。23年1月にも、JR山手線の目白駅で男性が転落しした。
国交省の資料によると、視覚障害者がホームから転落した事故は21年度の38件から増え続け、24年度には92件に。26年度は80件だったが、5年前の 倍以上だ。視覚障害者以外の事故も合わせた全体では21年度の2442件から増加し続けており、26年度には3673件だった。
相次ぐ事 故を受け、国交省は23年度、1日に10万人以上が利用する駅のホームドア設置を鉄道各社に要請。3000人以上の駅でもホームドアか、ホームの内側と外 側が分かる点字ブロックの設置を求めた。ホームドアの設置費用の国と自治体で3割強ずつを負担する補助金制度もある。
青山一丁目駅の事故を受け、国交省は26日、鉄道事業者などからなる検討会を開催。銀座線のホームドア設置計画の前倒しなどについて話し合った。東京メトロは「より早期に着工できるよう努力したい」と前向きな姿勢を示している。
http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0828/san_160828_6140153342.html