HYUNDAIのバスは日本で躍進したか？
【主なバスメーカーの関係。太字は株主、矢印は提携関係を意味する。】
【画像:尿素SCRシステム「FLENDS」を紹介するステッカー。】
昔の日本のバスは、ヨーロッパのバスメーカーと同じく、シャーシとボディは別会社で生産する傾向にあった。しかし、時代が経つにつれて、シャーシもボディもグループ内で生産するようになっていった。更には、HINOとISUZUのように、車種・生産会社を統合し、より合理化を図る企業も現れた。
UD TRUCKSは、この波に完全に乗り遅れたのである。最後まで、ボディの生産は外部の西日本車体工業に依頼していた。2009年に、MITSUBISHI FUSOと踏み込んだ提携を模索したが、事業統合は断念、OEMに留まった。合理化を図ろうとしたが、失敗したのである。そして、そのOEMも2010年にバス事業を休止するのと同時に、終了となった。
2012年9月17日付の日本経済新聞(朝刊)を読むと、「VOLVOの中国製バスに安全性の懸念があること」と「HYUNDAIが日本市場において攻勢をかけていること」が今回、UD TRUCKSのバス事業撤退の決定的理由になったような記事になっている。
果たして実際はどうなのか。HYUNDAIが、本当にUD TRUCKSの座を奪うほど攻勢をかけているのだろうか。
【画像:大型バスの月別販売台数(大型=定員30人以上)。】
【画像:HINO「FCHV BUS」とNISSAN DIESEL「Eurotour」。】
【画像:MITSUBISHI FUSO「Aero Ace」とHINO「SELEGA」。】
【画像:MITSUBISHI FUSO「Aero King」】
【画像:HYUNDAI「UNIVERSE」(前期モデル)。】
【画像:はとバス「ハローキティバス」として活躍中のVan Hool「Astromega」。】
日本では、以前からMercedes-BenzやVOLVO、Neoplanといった海外メーカーのバスが走っている。ただ、大量導入されるとは限らず、「客寄せパンダ」の意味で輸入されるケースも少なくなかった。【主なバスメーカーの関係。太字は株主、矢印は提携関係を意味する。】
一方、日本のバスメーカーに関しては、長年HINO・ISUZU・MITSUBISHI FUSO・UD TRUCKS(NISSAN DIESEL)の4社が市場のほとんどを占有してきた。ところが、バス会社の買い控えや地方の過疎化などの影響を受けて、このうちのUD TRUCKSが2010年10月をもってバスの販売を終了、ついに2012年9月をもってバス事業から完全撤退することを決めた。
【画像:尿素SCRシステム「FLENDS」を紹介するステッカー。】
ここで覚えておきたいのは、UD TRUCKSが技術力のない会社ではないということだ。事実、尿素SCRシステムによるクリーンディーゼル車に関しては、4社の中で最も早く市場投入をしていた。そして、導入当初は販売台数が上向き傾向にあった。
【画像:HINO「SELEGA HYBRID」】
ただ、他のメーカーが尿素SCR+Hybridシステムなど、より高効率のシステムを推進するようになると、UD TRUCKSの販売量は以前と同程度の販売量に落ち着いた。【画像:日本・アメリカ・ヨーロッパのディーゼル排出ガス規制値。】
UD TRUCKSにとっての問題は、技術力ではなく、トータルコストやサービス面に存在していた。昔の日本のバスは、ヨーロッパのバスメーカーと同じく、シャーシとボディは別会社で生産する傾向にあった。しかし、時代が経つにつれて、シャーシもボディもグループ内で生産するようになっていった。更には、HINOとISUZUのように、車種・生産会社を統合し、より合理化を図る企業も現れた。
UD TRUCKSは、この波に完全に乗り遅れたのである。最後まで、ボディの生産は外部の西日本車体工業に依頼していた。2009年に、MITSUBISHI FUSOと踏み込んだ提携を模索したが、事業統合は断念、OEMに留まった。合理化を図ろうとしたが、失敗したのである。そして、そのOEMも2010年にバス事業を休止するのと同時に、終了となった。
2012年9月17日付の日本経済新聞(朝刊)を読むと、「VOLVOの中国製バスに安全性の懸念があること」と「HYUNDAIが日本市場において攻勢をかけていること」が今回、UD TRUCKSのバス事業撤退の決定的理由になったような記事になっている。
果たして実際はどうなのか。HYUNDAIが、本当にUD TRUCKSの座を奪うほど攻勢をかけているのだろうか。
【画像:大型バスの月別販売台数(大型=定員30人以上)。】
販売台数のデータを見る限りでは、とてもHYUNDAIは躍進しているとは思えない。むしろ、2011年と2012年は2010年よりも販売台数が減少傾向にある。本当に攻勢をかけているのであれば、都市で使われるノンステップバス車両分を除いても、HYUNDAIはUD TRUCKSと同じ3桁の販売台数を持っていておかしくないはずだ。しかし、実際には年に数十台売るのがやっとである。
また、このデータを見ても分かるようにHINO・ISUZU・MITSUBISHI FUSOは、1500台前後の受注を維持している。東日本大震災の影響を受けているにしても、HYUNDAI日本進出の影響は受けていないとみて間違いないだろう。
また、このデータを見ても分かるようにHINO・ISUZU・MITSUBISHI FUSOは、1500台前後の受注を維持している。東日本大震災の影響を受けているにしても、HYUNDAI日本進出の影響は受けていないとみて間違いないだろう。
【画像:HINO「FCHV BUS」とNISSAN DIESEL「Eurotour」。】
あれだけフィリピン製の「Eurotour」を導入した東京空港交通でさえも、HYUNDAI「UNIVERSE」の購入をためらっている。それは何故なのか。
【画像:MITSUBISHI FUSO「Aero Ace」とHINO「SELEGA」。】
結局、バスそのものの価格は大量購入すればするほどメーカー希望価格より安くなる。大規模な事業者になればなるほど、イニシャルコストは問題ではないのだ。車両価格よりも重要なのは、ランニングコストである。HYUNDAIがPRしてきた「戦略的価格」は、攻勢をかける上では、はっきりいって無意味である。
【画像:MITSUBISHI FUSO「Aero King」】
先日、東京駅で見かけた12:00発の名古屋行きスーパーライナー号。HYUNDAIにはない2階建て車両である。
このバスを運行するJR東海バスでは、「Aero King」以外に、HINO「SELEGA HYBRID」なども導入している。いずれの車両も大量輸送できることや低燃費がランニングコスト削減に寄与しており、2階建てやHYBRIDといった「付加価値」があるのも特徴と言える。
MITSUBISHI FUSOやHINOが全国200か所以上の自社整備工場を持っていることも顧客(バス会社)の満足に繋がっている。
このバスを運行するJR東海バスでは、「Aero King」以外に、HINO「SELEGA HYBRID」なども導入している。いずれの車両も大量輸送できることや低燃費がランニングコスト削減に寄与しており、2階建てやHYBRIDといった「付加価値」があるのも特徴と言える。
MITSUBISHI FUSOやHINOが全国200か所以上の自社整備工場を持っていることも顧客(バス会社)の満足に繋がっている。
【画像:HYUNDAI「UNIVERSE」(前期モデル)。】
HYUNDAIはこれまで、今回紹介したJRバス各社や東京空港交通のような大規模事業者よりも、中小のバス会社を中心に「UNIVERSE」を売り込んできた。そして、そういったバス会社の多くは、「高速路線バス」ではなく「高速ツアーバス」を運行してきた。
奇しくも、12:10に先ほどのスーパーライナー号と同じく名古屋方面へ向かう「キラキラ号」が「UNIVERSE」であった。スーパーライナー号が路線バスであるのに対して、このキラキラ号はツアーバスの代表格と言える。
HYUNDAIは、ある意味こういったツアーバスの市場拡大に目をつけて、売り込みを図ってきたのかもしれない。しかし、今年4月に関越道で発生した帰化中国人運転手による居眠り事故が決定的原因となって、ツアーバスの廃止が決まった。今後、現行のツアーバスは、原則禁止となり、今後は路線バスとほぼ同じ形態での運行が義務付けられるようになる。簡単には運行できなくなるため、多くの中小旅行会社や中小バス会社が廃業や経営統合をするのではないだろうか。
おしまい。
奇しくも、12:10に先ほどのスーパーライナー号と同じく名古屋方面へ向かう「キラキラ号」が「UNIVERSE」であった。スーパーライナー号が路線バスであるのに対して、このキラキラ号はツアーバスの代表格と言える。
HYUNDAIは、ある意味こういったツアーバスの市場拡大に目をつけて、売り込みを図ってきたのかもしれない。しかし、今年4月に関越道で発生した帰化中国人運転手による居眠り事故が決定的原因となって、ツアーバスの廃止が決まった。今後、現行のツアーバスは、原則禁止となり、今後は路線バスとほぼ同じ形態での運行が義務付けられるようになる。簡単には運行できなくなるため、多くの中小旅行会社や中小バス会社が廃業や経営統合をするのではないだろうか。
【画像:HYUNDAI「UNIVERSE」(後期モデル)。】
中小のバス会社が廃業したり経営統合したりすることは、HYUNDAIにとっては顧客減少を意味する。今後、HYUNDAIが日本市場で攻勢をかけるのであれば、富士急行や西日本鉄道を皮切りに、大手バス会社と積極的に交渉していく必要があるだろう。そして、燃費の優れるHYBRIDモデルなど付加価値の高い車両を市場投入していくことも不可欠だろう。さらに、現在は約120か所に留まるメーカー整備拠点を日本の大手3社と同じく約240か所程度に引き上げれば、より魅力的なバスになると言えよう。おしまい。