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ベネズエラ化する韓国 3年前に鈴置高史氏が「民主主義の崩壊」を予言できたワケ



2025年1月10日にソウルの大統領官邸付近で尹錫悦大統領を支持する人々が集会を開いた



 昨年末の戒厳令を機に、無政府状況に陥った韓国。内戦を回避できるのか。2年以上も前から「韓国の民主主義は崩壊した」と警告を発していた鈴置高史氏に混迷の本質を聞いた。


【画像】「非常戒厳令」から加速…韓国が直面する「ウォン安」 ほか

無政府状態に
――韓国が混乱しています。

鈴置:1月3日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の逮捕に動いた高位公職者犯罪捜査処(公捜処)と警察を、大統領警護処が官邸前で阻止しました。にらみ合いは1月14日になっても続いています。

 法の執行ができない――無政府状態です。かといって公捜処が実力で逮捕に踏み切れば、内戦に陥ると心配する声が高まっています。

 左派は尹錫悦大統領を内乱罪で告発し、その勢いに乗って一刻も早く憲法裁判所で弾劾を確定したい。弾劾審判の期間は昨年12月14日に国会が訴追を決めてから180日以内ですから、6月12日が期限です。なお、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾は91日で審判が下りました。

 一方、保守は一刻も早く――弾劾訴追の審判が下って大統領選挙の実施が決まる前に、野党第1党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の選挙法違反を確定して出馬できないようにしたい。

 李在明代表は断然トップの支持率を誇り、大統領選挙が行われれば当選の可能性が高い。ただ、2024年11月15日に選挙法違反で有罪の一審判決を受けました。最高裁で懲役1年・執行猶予2年の刑が確定すれば国会議員を失職するうえ、10年間は立候補できません。

 最高裁は一審判決から6カ月以内に判決を下すよう定められており、これが守られるのなら5月15日が期限です。左派は最終審の判決が下りる前に大統領弾劾を確定し、大統領選挙に持ち込みたいのです。

年金を使ってウォン買い支え

 要は、大統領逮捕が左右の戦いの天王山となっているわけです。ところががっぷり四つのままで、いつになったら「内戦」が回避できるのか、先が見えない。ウォンは売られ、1月14日午後3時30分現在は1ドル=1463.2ウォンを付けています。

 ブルームバーグは1月14日、「韓国年金基金がドル売り開始、市場でウォンを下支え―関係者」(日本語版)で1月13日から年金を管理する国民年金公団がウォンの買い支えに入った。限度は500億ドル――と報じました。

 年金が自国通貨の買い支えに入るのは異例の事態です。普通は韓国銀行が外貨準備を使って介入しますが、「実弾」を使いつくしたのかもしれません。

「戒厳令、大統領を弾劾、そして逮捕状……政治不安でウォン安の恐怖に直面する韓国」で指摘した通り、韓国の外貨準備はジリジリと減っています。

 ウォン相場が決壊する「マジノ線」は1500ウォンと言われます。韓国は政治も経済も崖っぷちに立っているのです。突然の混迷には驚く日本人も多いでしょう。韓国人でさえそうなのですから。


国の自壊は文在寅時代から
――しかし、鈴置さんは2022年6月に出版した『韓国民主政治の自壊』で、現在の韓国の混乱を予言していました。

鈴置:「予言していた」とは言いすぎです。昨年末の戒厳令には私も驚きました。ただ、この本で「韓国の民主主義がどんどん壊れている」と指摘したのは事実です。

――日本の韓国専門家のほとんどが「成熟した民主主義国」と韓国を持ちあげていました。

鈴置:ファクトをきちんと見れば、「成熟」どころか「後退」あるいは「崩壊」は明らかでした。確信したのは文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年です。6月から10月までの4カ月間で、法務部長官が検事総長に対し指揮権を3回も発動したのです。

 違法献金事件や汚職事件などの捜査に関し、担当する検察官を変更させたのですが、いずれも左派政治家の救済といった政権防衛が目的でした。

 1987年の民主化以降、韓国にも「指揮権は存在するが、容易には発動できない」との不文律が生まれかけていました。それを文在寅政権があっさりと壊したのです。

 法律で定められているからと言って、何をやってもいいわけではありません。この場合なら、三権分立を毀損しかねない指揮権の発動は慎重になるのが真の法治国家でしょう。そうした慣例――日本の政界用語で言えば、「憲政の常道」が積み重なって安定した民主国家ができていくのです。

左派だって平気で指揮権発動

ところが「民主化勢力」を自負する左派政権が「常道」をいとも簡単に破った。さらに驚くことに、それが問題化しなかった。当然、憲政の常道は尊重されなくなります。そんな空気の中、2024年12月3日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が戒厳を宣布したのです。

 韓国の憲法第77条には戒厳令の規定があります。「大統領は戦時・事変又はこれに準ずる国家非常事態において(中略)公共の安寧秩序を維持する必要があるときには(中略)戒厳を宣布することができる」とあります。

 ただ、昨年12月の状況が「公共の安寧秩序を維持する必要があるとき」と見る韓国の法律家はほとんどいません。野党による行政官や検事らへの相次ぐ弾劾により、与野党の対立は激化していましたが、国家非常事態と呼べるかははなはだ疑問でした。尹錫悦大統領も「常道を破った」のです。

 尹錫悦大統領は戒厳の宣布には正統性があった、と未だに主張しています。「左派政権だって法律を恣意的に運用したじゃないか」と不満たらたらでしょう。何せ、文在寅政権が4カ月間に3回も指揮権を発動した時の検事総長は尹錫悦氏だったのですから。

 2020年10月22日、検事総長だった尹錫悦氏は国会司法委員会で指揮権発動に対し「大半の検察官と法律家は検察庁法違反と考えている」と強い口調で抗議しています。

 文在寅政権と対立した尹錫悦氏はその後、いびり出される形で検事総長を辞任しました。そして有力な大統領候補のいなかった保守「国民の力」に担がれ、2022年5月に最高権力を握ったのです。


日本では「伝家の宝刀」なのに
――韓国人は寄ってたかって法治を壊している……。

鈴置:その通りです。そもそも韓国人の法治意識は薄い。1987年の民主化まで検察は政権の完全な手先で、大統領の気に入らない政治家らを手当たり次第に逮捕していました。だから検事総長に対しわざわざ正式に指揮権を発動する必要はなかった。

 民主化以降、検察は政権からの独立を目指しました。田中角栄という大物政治家も起訴した日本の検察は、韓国の検察官のあこがれの的でした。

 韓国の法曹関係者も「日本に指揮権は存在するが、発動するなら内閣を潰す覚悟がいる」――伝家の宝刀であることはよく知っています。韓国紙にも時々、1954年(昭和29年)に犬養健法務大臣が指揮権を発動した後、辞任した事件が紹介されます。

 左派、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の2005年、指揮権が発動されました。左派の学者を捜査する際に拘束しないよう法務部長官が指示したのです。検事総長はこれを受け入れましたが、抗議のために辞任しました。

「指揮権は安易に発動しない、との慣例が韓国でも生まれるのかな」と思ったものですが、誤った判断でした。左右対立が激しくなると、憲政の常道は簡単に踏みにじられたのです。

根付かなかった「憲政の常道」
――踏みにじられたのが2020年。

鈴置:この年にはもうひとつ、民主主義の後退を示す事件が起きました。4月の総選挙で与党の左派「共に民主党」が国会で6割の議席を占めると、慣例を無視して委員長ポストを独占したのです。翌2021年7月に慣例が復活しましたが、自分に都合のいい法案を通した後のことでした。

 いわゆる「軍事独裁政権」時代、国会は多数を占める与党のやりたい放題でした。委員長ポストを独占し、法案を思うままに通しました。1987年の民主化の後、日本の例も参考にして野党にもポストを分け、妥協の道を探りました。

 重要な委員長ポストを握れば、少数野党もある程度の抵抗が可能です。ソウルに駐在していた私は「こうして憲政の常道というものが根付いていくのだな」と感心したのですが、そうはいきませんでした。

――「憲政の常道」の破壊に対し、国民から批判は起きなかったのですか? 

鈴置:起きませんでした。韓国人は「憲政の常道」の重要性、あるいはその存在にさえ気が付いていないのです。韓国人は対立した際、自分が正義と主張するに急で、どうやって妥協するかに考えが及びません。

 捜査指揮権の自制にしろ、委員長ポストの分配にしろ、対立を和らげるための装置です。韓国ではこの安全装置が根付く前に左右対立が激化し自ら破壊してしまった。安全装置の貴重さは使っていくうちに分かるものですが、それを認識するには至らなかったのです。


あっという間にベネズエラ
 韓国の民主主義が壊れて行く過程は『韓国民主政治の自壊』の第2章「あっという間にベネズエラ」で詳述しました。見出しに「ベネズエラ」を入れたのは、韓国の保守派から「左派独裁により、没落したベネズエラの轍を踏む」と悲鳴があがったからです。

 中南米随一の豊かさと、平和な政権交代に象徴される民主主義を誇っていたベネズエラが、いつの間にか大量に難民を送り出す貧困国に落ちぶれました。戦争をしたわけではありません。

 1999年に登場した左派のウゴ・チャベス政権が権力の独占を目指して司法とメディアを掌握し、反対勢力を徹底的に痛めつけました。その混乱の中で経済が低迷し、米国との関係も破綻したのです。

 文在寅政権も保守政権時代の最高裁長官、官僚、軍人を相次ぎ逮捕するなど、敵対する政治勢力の根絶やしを図りました。国際社会の非難により最後はあきらめましたが、誤報を理由にメディアに懲罰的な罰金を科す法律も作りかけました。韓国は「アジアのベネズエラ」への道を歩みかけているのです。

 注目すべきは保守の警告は「左派が政権を握ると国が潰れる」ことに留まり「法治破壊の危険性」に及ばなかった点です。「法治」の観点から左派を批判した人は私が調べた限り、1人だけでした。

チャベスが出てきた
 第2章第5節の見出しを「『チャベス』はこれからも出てくる」としたのは、私も韓国左派の無法ぶりを念頭に書いたからです。しかし予想に反して保守から「次のチャベス」が出てきたわけです。

 1月2日発表のKBSの世論調査によると、韓国人の72%が「昨年末の戒厳令宣布は憲法違反だ」と回答しましたが、保守の与党「国民の力」支持者に限れば、何と78%が「大統領の職務権限である」と答えています。

 今回の戒厳令は国会により否認されましたが、混乱は続いています。これも法治の欠如からです。

 大統領逮捕が進まない理由のひとつは、内乱罪の捜査権限のない公捜処が逮捕令状を申請し、裁判所もこれに応じて発行したことにあります。

 大統領側はこれを理由に官邸への進入を拒否したのです。保守は公捜処も、令状を発行した地裁も左派の勢力下にあると見なしています。「アジアのベネズエラ」になるのか、韓国は分岐点に立っているのです。


合意形成には手が届かず
――韓国の「民主主義」は日本とは違いますね。

鈴置:確かに、日本や西欧とは根本的に異なります。先進国では社会に法治という土壌があって、そこに自由な言論、公正な選挙、人権の保障といった民主主義の仕組みが根付いている。

 一方、韓国は西欧や日本の形を真似ましたが「法治の土壌」が無いため、民主主義が枯れやすい。話し合いのルールも確立できず、対立する党派が妥協しコンセンサスを作ることが難しい。

 だから今も、尹錫悦氏を弾劾したい人と、支持する人が憲法裁判所や大統領官邸の前に集まって勢力を競い合うしかない。弾劾が成立するかどうかは、大衆の動員力で決まると信じられているのです。

 さらに困ったことに、韓国人は街頭に出て大声で叫ぶことが民主主義の証(あかし)と考えている。軍事独裁政権時代に自由にモノが言えなかった反動です。

 1987年6月まで韓国は本当に窮屈な社会でした。喫茶店で友人と話す時も、後ろを振り返りながら小声で語るのが普通でした。情報機関員がどこかで耳を澄ませていて、政権批判をしようものなら即、しょっ引かれたからです。

 民主化により、韓国は誰もが自由に意見を表明できる国になりました。でも、それら多様な意見からコンセンサスをまとめあげる仕組みは、ついに育ちませんでした。

「日本よりも上だ」

――底の浅い民主主義に留まったのですね。

鈴置:そもそも、1987年の民主化は韓国人が本当に民主主義を望んだ結果なのか、最近では疑うようになりました。韓国人は「先進国の称号」が欲しかっただけではないのか、と思えてきたのです。

 だから、いったん世界から先進国と認められると、韓国の決定的な弱点である「法治の欠如」を見ようともしない。法治こそは安定した民主主義の基礎というのに。

 韓国人はただ、「我が国の民主主義は日本よりも上だ」とハイタッチし合うだけなのです。『韓国消滅』の第2章「形だけの民主主義を誇る」で「底の浅い民主主義に留まった韓国」を描いています。


民主主義が崩壊した韓国

ベネズエラ化する韓国 3年前に鈴置高史氏が「民主主義の崩壊」を予言できたワケ



2025年1月10日にソウルの大統領官邸付近で尹錫悦大統領を支持する人々が集会を開いた



 昨年末の戒厳令を機に、無政府状況に陥った韓国。内戦を回避できるのか。2年以上も前から「韓国の民主主義は崩壊した」と警告を発していた鈴置高史氏に混迷の本質を聞いた。


【画像】「非常戒厳令」から加速…韓国が直面する「ウォン安」 ほか

無政府状態に
――韓国が混乱しています。

鈴置:1月3日に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の逮捕に動いた高位公職者犯罪捜査処(公捜処)と警察を、大統領警護処が官邸前で阻止しました。にらみ合いは1月14日になっても続いています。

 法の執行ができない――無政府状態です。かといって公捜処が実力で逮捕に踏み切れば、内戦に陥ると心配する声が高まっています。

 左派は尹錫悦大統領を内乱罪で告発し、その勢いに乗って一刻も早く憲法裁判所で弾劾を確定したい。弾劾審判の期間は昨年12月14日に国会が訴追を決めてから180日以内ですから、6月12日が期限です。なお、朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾は91日で審判が下りました。

 一方、保守は一刻も早く――弾劾訴追の審判が下って大統領選挙の実施が決まる前に、野党第1党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の選挙法違反を確定して出馬できないようにしたい。

 李在明代表は断然トップの支持率を誇り、大統領選挙が行われれば当選の可能性が高い。ただ、2024年11月15日に選挙法違反で有罪の一審判決を受けました。最高裁で懲役1年・執行猶予2年の刑が確定すれば国会議員を失職するうえ、10年間は立候補できません。

 最高裁は一審判決から6カ月以内に判決を下すよう定められており、これが守られるのなら5月15日が期限です。左派は最終審の判決が下りる前に大統領弾劾を確定し、大統領選挙に持ち込みたいのです。

年金を使ってウォン買い支え

 要は、大統領逮捕が左右の戦いの天王山となっているわけです。ところががっぷり四つのままで、いつになったら「内戦」が回避できるのか、先が見えない。ウォンは売られ、1月14日午後3時30分現在は1ドル=1463.2ウォンを付けています。

 ブルームバーグは1月14日、「韓国年金基金がドル売り開始、市場でウォンを下支え―関係者」(日本語版)で1月13日から年金を管理する国民年金公団がウォンの買い支えに入った。限度は500億ドル――と報じました。

 年金が自国通貨の買い支えに入るのは異例の事態です。普通は韓国銀行が外貨準備を使って介入しますが、「実弾」を使いつくしたのかもしれません。

「戒厳令、大統領を弾劾、そして逮捕状……政治不安でウォン安の恐怖に直面する韓国」で指摘した通り、韓国の外貨準備はジリジリと減っています。

 ウォン相場が決壊する「マジノ線」は1500ウォンと言われます。韓国は政治も経済も崖っぷちに立っているのです。突然の混迷には驚く日本人も多いでしょう。韓国人でさえそうなのですから。


国の自壊は文在寅時代から
――しかし、鈴置さんは2022年6月に出版した『韓国民主政治の自壊』で、現在の韓国の混乱を予言していました。

鈴置:「予言していた」とは言いすぎです。昨年末の戒厳令には私も驚きました。ただ、この本で「韓国の民主主義がどんどん壊れている」と指摘したのは事実です。

――日本の韓国専門家のほとんどが「成熟した民主主義国」と韓国を持ちあげていました。

鈴置:ファクトをきちんと見れば、「成熟」どころか「後退」あるいは「崩壊」は明らかでした。確信したのは文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年です。6月から10月までの4カ月間で、法務部長官が検事総長に対し指揮権を3回も発動したのです。

 違法献金事件や汚職事件などの捜査に関し、担当する検察官を変更させたのですが、いずれも左派政治家の救済といった政権防衛が目的でした。

 1987年の民主化以降、韓国にも「指揮権は存在するが、容易には発動できない」との不文律が生まれかけていました。それを文在寅政権があっさりと壊したのです。

 法律で定められているからと言って、何をやってもいいわけではありません。この場合なら、三権分立を毀損しかねない指揮権の発動は慎重になるのが真の法治国家でしょう。そうした慣例――日本の政界用語で言えば、「憲政の常道」が積み重なって安定した民主国家ができていくのです。

左派だって平気で指揮権発動

ところが「民主化勢力」を自負する左派政権が「常道」をいとも簡単に破った。さらに驚くことに、それが問題化しなかった。当然、憲政の常道は尊重されなくなります。そんな空気の中、2024年12月3日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が戒厳を宣布したのです。

 韓国の憲法第77条には戒厳令の規定があります。「大統領は戦時・事変又はこれに準ずる国家非常事態において(中略)公共の安寧秩序を維持する必要があるときには(中略)戒厳を宣布することができる」とあります。

 ただ、昨年12月の状況が「公共の安寧秩序を維持する必要があるとき」と見る韓国の法律家はほとんどいません。野党による行政官や検事らへの相次ぐ弾劾により、与野党の対立は激化していましたが、国家非常事態と呼べるかははなはだ疑問でした。尹錫悦大統領も「常道を破った」のです。

 尹錫悦大統領は戒厳の宣布には正統性があった、と未だに主張しています。「左派政権だって法律を恣意的に運用したじゃないか」と不満たらたらでしょう。何せ、文在寅政権が4カ月間に3回も指揮権を発動した時の検事総長は尹錫悦氏だったのですから。

 2020年10月22日、検事総長だった尹錫悦氏は国会司法委員会で指揮権発動に対し「大半の検察官と法律家は検察庁法違反と考えている」と強い口調で抗議しています。

 文在寅政権と対立した尹錫悦氏はその後、いびり出される形で検事総長を辞任しました。そして有力な大統領候補のいなかった保守「国民の力」に担がれ、2022年5月に最高権力を握ったのです。


日本では「伝家の宝刀」なのに
――韓国人は寄ってたかって法治を壊している……。

鈴置:その通りです。そもそも韓国人の法治意識は薄い。1987年の民主化まで検察は政権の完全な手先で、大統領の気に入らない政治家らを手当たり次第に逮捕していました。だから検事総長に対しわざわざ正式に指揮権を発動する必要はなかった。

 民主化以降、検察は政権からの独立を目指しました。田中角栄という大物政治家も起訴した日本の検察は、韓国の検察官のあこがれの的でした。

 韓国の法曹関係者も「日本に指揮権は存在するが、発動するなら内閣を潰す覚悟がいる」――伝家の宝刀であることはよく知っています。韓国紙にも時々、1954年(昭和29年)に犬養健法務大臣が指揮権を発動した後、辞任した事件が紹介されます。

 左派、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の2005年、指揮権が発動されました。左派の学者を捜査する際に拘束しないよう法務部長官が指示したのです。検事総長はこれを受け入れましたが、抗議のために辞任しました。

「指揮権は安易に発動しない、との慣例が韓国でも生まれるのかな」と思ったものですが、誤った判断でした。左右対立が激しくなると、憲政の常道は簡単に踏みにじられたのです。

根付かなかった「憲政の常道」
――踏みにじられたのが2020年。

鈴置:この年にはもうひとつ、民主主義の後退を示す事件が起きました。4月の総選挙で与党の左派「共に民主党」が国会で6割の議席を占めると、慣例を無視して委員長ポストを独占したのです。翌2021年7月に慣例が復活しましたが、自分に都合のいい法案を通した後のことでした。

 いわゆる「軍事独裁政権」時代、国会は多数を占める与党のやりたい放題でした。委員長ポストを独占し、法案を思うままに通しました。1987年の民主化の後、日本の例も参考にして野党にもポストを分け、妥協の道を探りました。

 重要な委員長ポストを握れば、少数野党もある程度の抵抗が可能です。ソウルに駐在していた私は「こうして憲政の常道というものが根付いていくのだな」と感心したのですが、そうはいきませんでした。

――「憲政の常道」の破壊に対し、国民から批判は起きなかったのですか? 

鈴置:起きませんでした。韓国人は「憲政の常道」の重要性、あるいはその存在にさえ気が付いていないのです。韓国人は対立した際、自分が正義と主張するに急で、どうやって妥協するかに考えが及びません。

 捜査指揮権の自制にしろ、委員長ポストの分配にしろ、対立を和らげるための装置です。韓国ではこの安全装置が根付く前に左右対立が激化し自ら破壊してしまった。安全装置の貴重さは使っていくうちに分かるものですが、それを認識するには至らなかったのです。


あっという間にベネズエラ
 韓国の民主主義が壊れて行く過程は『韓国民主政治の自壊』の第2章「あっという間にベネズエラ」で詳述しました。見出しに「ベネズエラ」を入れたのは、韓国の保守派から「左派独裁により、没落したベネズエラの轍を踏む」と悲鳴があがったからです。

 中南米随一の豊かさと、平和な政権交代に象徴される民主主義を誇っていたベネズエラが、いつの間にか大量に難民を送り出す貧困国に落ちぶれました。戦争をしたわけではありません。

 1999年に登場した左派のウゴ・チャベス政権が権力の独占を目指して司法とメディアを掌握し、反対勢力を徹底的に痛めつけました。その混乱の中で経済が低迷し、米国との関係も破綻したのです。

 文在寅政権も保守政権時代の最高裁長官、官僚、軍人を相次ぎ逮捕するなど、敵対する政治勢力の根絶やしを図りました。国際社会の非難により最後はあきらめましたが、誤報を理由にメディアに懲罰的な罰金を科す法律も作りかけました。韓国は「アジアのベネズエラ」への道を歩みかけているのです。

 注目すべきは保守の警告は「左派が政権を握ると国が潰れる」ことに留まり「法治破壊の危険性」に及ばなかった点です。「法治」の観点から左派を批判した人は私が調べた限り、1人だけでした。

チャベスが出てきた
 第2章第5節の見出しを「『チャベス』はこれからも出てくる」としたのは、私も韓国左派の無法ぶりを念頭に書いたからです。しかし予想に反して保守から「次のチャベス」が出てきたわけです。

 1月2日発表のKBSの世論調査によると、韓国人の72%が「昨年末の戒厳令宣布は憲法違反だ」と回答しましたが、保守の与党「国民の力」支持者に限れば、何と78%が「大統領の職務権限である」と答えています。

 今回の戒厳令は国会により否認されましたが、混乱は続いています。これも法治の欠如からです。

 大統領逮捕が進まない理由のひとつは、内乱罪の捜査権限のない公捜処が逮捕令状を申請し、裁判所もこれに応じて発行したことにあります。

 大統領側はこれを理由に官邸への進入を拒否したのです。保守は公捜処も、令状を発行した地裁も左派の勢力下にあると見なしています。「アジアのベネズエラ」になるのか、韓国は分岐点に立っているのです。


合意形成には手が届かず
――韓国の「民主主義」は日本とは違いますね。

鈴置:確かに、日本や西欧とは根本的に異なります。先進国では社会に法治という土壌があって、そこに自由な言論、公正な選挙、人権の保障といった民主主義の仕組みが根付いている。

 一方、韓国は西欧や日本の形を真似ましたが「法治の土壌」が無いため、民主主義が枯れやすい。話し合いのルールも確立できず、対立する党派が妥協しコンセンサスを作ることが難しい。

 だから今も、尹錫悦氏を弾劾したい人と、支持する人が憲法裁判所や大統領官邸の前に集まって勢力を競い合うしかない。弾劾が成立するかどうかは、大衆の動員力で決まると信じられているのです。

 さらに困ったことに、韓国人は街頭に出て大声で叫ぶことが民主主義の証(あかし)と考えている。軍事独裁政権時代に自由にモノが言えなかった反動です。

 1987年6月まで韓国は本当に窮屈な社会でした。喫茶店で友人と話す時も、後ろを振り返りながら小声で語るのが普通でした。情報機関員がどこかで耳を澄ませていて、政権批判をしようものなら即、しょっ引かれたからです。

 民主化により、韓国は誰もが自由に意見を表明できる国になりました。でも、それら多様な意見からコンセンサスをまとめあげる仕組みは、ついに育ちませんでした。

「日本よりも上だ」

――底の浅い民主主義に留まったのですね。

鈴置:そもそも、1987年の民主化は韓国人が本当に民主主義を望んだ結果なのか、最近では疑うようになりました。韓国人は「先進国の称号」が欲しかっただけではないのか、と思えてきたのです。

 だから、いったん世界から先進国と認められると、韓国の決定的な弱点である「法治の欠如」を見ようともしない。法治こそは安定した民主主義の基礎というのに。

 韓国人はただ、「我が国の民主主義は日本よりも上だ」とハイタッチし合うだけなのです。『韓国消滅』の第2章「形だけの民主主義を誇る」で「底の浅い民主主義に留まった韓国」を描いています。



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番号 タイトル ライター 参照 推薦
3/31(水) パッチ内容案内させていただ… 관리자 2023-03-24 211583 18
2685141 今夜はいのししカルビ焼き物だ!wwwwwww....... (1) 신사동중국인 07:52 3 0
2685140 警察逮捕組数百人 2次沮止線通過 sw49f 07:51 2 0
2685139 反日警察たち, とても余裕のあって.......... jap6cmwarotaZ 07:51 2 0
2685138 1次沮止線通過. 親日政府崩壊 10分前 w あかさたなはまやら 07:40 48 0
2685137 YOON大統領怒りの反撃 (3) sunchan 07:39 48 0
2685136 警察梯子通じて 1次沮止線通過 sw49f 07:36 37 0
2685135 始めたな..... jap6cmwarotaZ 07:26 95 0
2685134 ロリコン変態強姦犯人 tikubizumou1 07:23 77 0
2685133 これはクーデターですね。 (2) riverside 07:20 96 0
2685132 本日は死傷者が多数でるようだ (2) 夢夢夢 07:16 104 0
2685131 ユンソックヨル逮捕捜索令状 www あかさたなはまやら 07:12 102 0
2685130 警察鉄條網鎖除去 (1) sw49f 05:59 162 0
2685129 ユンソックヨル弁護私費さえ出す事....... sw49f 03:19 166 0
2685128 警察逮捕組 1000人に防弾胴衣支給 sw49f 03:10 146 0
2685127 <速報>尹 逮捕作戦切迫!!!!!!! tyrel 03:05 146 0
2685126 嫌韓倭人をつちで殴る御兄さん来た.!....... pplive112 02:50 220 0
2685125 木枯し紋次郎 S-GAIRYOU 02:31 225 0
2685124 特装機兵ドルバック S-GAIRYOU 02:25 204 0
2685123 cris1717 ななこも 01:54 185 0
2685122 日本人は中国人です (3) fighterakb 01:33 270 3