ロシアと北朝鮮が１３日の首脳会談を通じて軍事協力を強化したことで、自由民主主義陣営の結束が改めて重要性を増した。

　日米韓３カ国は８月、共同文書「キャンプデービッド原則」を発表して中長期の協力指針を示したが、各国の内政状況次第では持続性に問題が生じるとの指摘もある。日米韓合意の「白紙化」を防ぐ方策について、外交官出身で韓国の主要シンクタンク理事長を務める２氏に話を聞いた。（ソウル　時吉達也）

豪ＮＺ加え「大きな傘」作れ

　世宗（セジョン）研究所の李容濬（イ・ヨンジュン）理事長

日米韓協力は、韓国の政権交代などに伴って再び日韓関係が悪化すれば、全体の「３分の２」が崩れる危うさをはらむ。安全保障協力の主眼が北朝鮮から中露朝に移ったことを踏まえ、オーストラリアやニュージーランドを加えたより「大きな傘」の協力体に発展させれば、こうしたリスクは相対的に低減するだろう。

韓米日は８月の合意で、軍事演習の定例化を公式に宣言した。日本との軍事協力に対する韓国国内の反発が強いにもかかわらず、尹錫悦（ユン・ソンニョル）政権が３カ国の将来を見据え、勇気ある判断をしたと評価している。

しかし、日米の専門家からは、日本との安保協力に慎重な革新系政権が韓国で発足した場合に、合意が維持されるのか憂慮する質問が絶えない。「日米韓」を多国間協力体に発展させれば、こうした懸念が解消されると考える。

２０カ国以上が参加する米海軍主催の環太平洋合同演習「リムパック」が良い例だ。韓国では日本との合同演習に対する抵抗が強いが、リムパックには革新系の文在寅（ムン・ジェイン）前政権も、海上自衛隊との対面に負担を感じることなく参加できた。

北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）が長期間維持されているのも、多数の国が参加しているためだ。米英仏独のみで構成されていたら、個別の懸案で関係がこじれ、すでに枠組みが崩壊していただろう。

これまでは主要な関心事が朝鮮半島問題だったため協議体の拡張は難しかったが、中国の伸長に対応するのであれば共通の危機意識を持つ国は多い。カナダやフィリピンの参加も将来的に検討可能ではないか。

日米韓を中心とする多国間協議体を、ＮＡＴＯに並ぶ自由民主主義陣営の２つ目の柱にする。どの参加国にとってもデメリットはなく、旗振り役がいれば十分に実現可能とみる。

米大統領選までに可視的成果を

前回の任期を通じ、同盟国を重視しない「孤立主義」の外交姿勢を示したトランプ前米大統領が再選する事態になれば、日米韓協力は無効化しかねない。合意を恒久的なものとするためには、来年１１月の米大統領選までに可視的な成果作りを急ぎ、合意内容の制度化を進める必要がある。

私は外交通商相を務めた２００３～０４年当時、北朝鮮問題を協議する日米韓の３国調整グループ（ＴＣＯＧ）が存在感を失うのを目の当たりにした。米ブッシュ政権の対北強硬策に対し、日韓は慎重な対応を求める姿勢で一致しつつも、十分な連携をとり、米国に方針転換を迫るほど良好な関係ではなかった。

当時とは異なり、日韓関係は尹錫悦政権下で大幅に改善した。８月の合意では安全保障問題が発生した場合に相互に協議することが明記されたが、日韓間には過去にこうした枠組みがなかった。相当に意義深い進展といえる。

残念ながら、３カ国協力への理解が最も広がっていないのが韓国だ。国内には日本との安保協力を進めることへの警戒感が根強い。過去には米軍の迎撃システム配備をめぐり、韓国一国のみが中国による経済報復の標的になった。こうした事態が今後は起こらないと、韓国国民が実感できるようにする必要がある。

そのためには、半導体などのサプライチェーン（供給網）に問題が生じた場合の「迅速な情報共有」を盛り込んだ３カ国合意を、１歩進んで「共同対処」に引き上げるべきだ。

また、北朝鮮の脅威と直接対峙（たいじ）する韓国に、日米韓の常設事務所を開設することも、韓国社会に３カ国協力の稼働状況を伝える上で効果的だ。ひいては合意の持続性強化につながるのではないか。こうした実績を積み上げるのに、残された時間は決して多くはない。