食事をしているだけなのに再生回数が100万回を超える動画がある。「音」がネット上で新たなアクセスを獲得する秘訣になったのはなぜだろうか。
食事をしているだけなのに再生回数が100万回を超える動画がある。さらにすごいのは、この100万人の視聴者のうち、画面を見ないで音だけを聞いている「聴衆」がかなりいることで、「この音、ものすごく気持ちいい」、「聞いているとストレス解消になる」、「毎日寝る前に聞いている」といったコメントが寄せられている。「音」がネット上で新たなアクセスを獲得する秘訣になったのはなぜだろうか。
「皆さん、こんにちは。今日はバーベキュー味のまぜ麺を食べます」。動画はこんなあいさつとともに始まり、投稿者は大きな口を開けて目の前の麺を食べ始め、すすったりかんだりする音も時々聞こえてくる。普通の「食べる系投稿者」と違い、この投稿者はまぜ麺の種類や作り方を紹介することはなく、味の評価もせず、ただひたすら食べ続けるだけだ。動画はまったく編集されておらず、目に映るのは食べ始めてから食べ終わるまでのプロセスだけ、耳に聞こえるのは「食べる音」だけだ。
注意して見てみると、ネットにはこうした動画が多くアップされており、「音フェチグルメ」というジャンルが出来ている。SNSプラットフォームで検索してみると、「食べる音」で250万人以上のフォロワーを獲得した投稿者がおり、「いいね!」が30万以上ついた飴をなめる動画のコメント欄には、「聞いているとストレス解消になる」、「何回も聞いたけど、何度聞いても飽きない」といった声が寄せられていた。
中国国家二級心理カウンセラーで英国心理学会認定心理士の陳志林(チェン・ジーリン)さんによると、こうした「音フェチ動画」が用いているのはASMR(Autonomous sensory meridian response)という原理で、専門的には「自律感覚絶頂反応」という。人体が視覚、聴覚、触覚、嗅覚などを通じて感知した刺激がきっかけになって脳内や頭皮、背中などの部位に起こる、人を心地よくさせる独特の刺激感を指す。聴覚によるASMRでは背中へのピンポイントの刺激、頭皮のしびれ、脳内のしびれなどを感じる。本質的に言えば、これは生体電気が発生したことによるもので、特殊な神経の興奮と考えることができる。こうした感覚は、一種独特の刺激感であるとも言える。
ASMRは最初は海外の動画サイトで話題になり、2014年ごろに中国に入ってきた。今では動画サイトには多種多様のASMR動画があり、雨の音、水の流れる音、風の音といった自然の音もあれば、本をめくる音、字を書く音、食べる音もある。さらには、ガラスのコップをはじく音や野菜を切る音にも一定のファンがいる。動画投稿者は野菜を切るときに大きな音で切り、切るスピードをあえて遅くする。ちょうどいいスピードで野菜を切る音は、これを聞いた大勢のネットユーザーに安らぎを与えられるという。
陳さんは、「音は日常的な感情のコントロールにおいて非常に重要なもので、心理状態に極めて大きな影響を与え、わずか数秒の音が一日の気分を左右するということさえある。ASMRにはストレス緩和の機能があり、睡眠を改善するのにも役立つ。しかし、音による睡眠サポートは補助的なものに過ぎず、不眠を完全に解消することはできない。眠りの質を高める一般的な方法は、やはり毎日ポジティブな気持ちを保ち、規則的に休息を取り、電子製品を使用し過ぎないようにすることだ。また、運動も眠りを助ける。長期にわたりASMRの助けを借りて眠ったりストレスを解消したりしていると、依存症になる可能性があるため、長期的に不眠やうつ状態や不安に悩まされている人は、速やかに正しい治療を受けるべきで、手軽な音動画に望みを託すようなことはしない方がいい」との見方を示している。