外国人の中国旅行について、海外メディアはリスクやハードルが多いと報じた。リスクは拘束の恐れ、ハードルは現金払いの難しさだ。
厳格な新型コロナウイルス規制のない中国の夏は4年ぶりだ。北京の紫禁城のような観光名所の入場券は数分で売り切れるが、外国人観光客は少ない。その理由として米ブルームバーグ通信は外国人の訪中にはリスクやハードルが多いと報じた。リスクは拘束の恐れ、ハードルは現金払いの難しさだ。
ブルームバーグ通信によると、北京でツアーガイドをしているジェイ・リーさんは「最近、紫禁城に行って20人か30人の外国人を見かけたらすごいことだ」という。「ほとんどの外国人はビジネス目的で中国を訪れ、少し観光する程度で観光客はその20%程度」とみているためだ。
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)前、中国には年平均で約1億3600万人が訪れていたが、ブルームバーグ通信は「海外からの旅客便増便も観光客数をこの水準に回復させることはないだろう」と伝えた。
背景にあるのは米中対立の激化などの国際情勢の変化だ。米国務省は国民に対し、「出国禁止を含む現地法の恣意(しい)的な執行や不当に拘束される危険性がある」ため中国本土への渡航を再考するよう勧告している。
オーストラリア政府は中国では高度な注意を払うべきだとし、当局がいわゆる国家安全保障上の懸念から外国人を拘束しており、「恣意的な拘束や広義の国家安全保障法制を含む現地法の厳しい執行のリスクがある」と警鐘を鳴らしている。
こうした警告は当然のことながら、外国人の中国旅行熱を冷ますことになる。マンダリン・オリエンタル・グループのジェームズ・ライリー最高経営責任者(CEO)は「中国へのインバウンドは今のところ緩やかだ。広範な地政学的緊張が人々を停止状態にさせている」と語った。
外国人の中国旅行を難しくしているもう一つの要因は、中国独自のデジタル決済プラットフォームを使わなければならないことだ。
中国以外のクレジットカードはほとんど利用できず、現金払いさえ難しい。露店から大型デパートに至るまで、ほとんどの小売業はテンセント・ホールディングス(騰訊)の「ウィーチャットペイ(微信支付)」かアリババグループ傘下アント・グループの「アリペイ(支付宝)」しか受け入れていない。
中国人民銀行(中央銀行)は改善に乗り出し、微信支付と支付宝については最近、外国の銀行カードとの連携を約束した。
しかし、スマートフォンにインストールされる現地の決済プラットフォームがなければ、都市を観光するため自転車などをレンタルすることさえ不可能に近い。観光名所のチケット予約やタクシーの手配、その他の移動には現地の電話番号が必要で、鉄道予約の手続きは特に中国語を話せない人にとっては面倒だ。
スロベニアを拠点に活動する映像作家のバーバラ・コスムン氏は今夏、中国で働く友人や家族に会うため訪中した。同氏は「微信支付のせいで歓迎されていないような気分になる」と心情を吐露。その上で「中国は世界で最も便利な国だ。中国語が話せて、適切なアプリがあって、中国のカードを持っていればだけれど」と付け加えた。