「旧車」と呼ばれる往年のスポーツカーの中古価格が高騰している。

　自動車大手が開発を競った１９８０～９０年代に売り出された車種に人気が集中し、発売時の４倍近くの値が付くケースもある。

かつて憧れた車に乗りたいという思いとともに、車の電動化で「馬力の強いエンジン車に乗れなくなるのでは」というファンの焦りが背景にあるようだ。

■進む電動化

　中古車メディア「カーセンサー」によると、旧車の価格は走行距離や保存状態によって異なるが、状態の良い車は品薄で発売時を上回る状況が続く。

９３年にトヨタ自動車が発売した「スープラ」は当時２８９万～４７２万円だったが、７月時点の販売額は６３４万円に跳ね上がり、この２年で価格は約２倍となった。

　日産自動車「スカイラインＧＴ―Ｒ」の８９年モデルは７４０万円、９０年にホンダが投入した初代「ＮＳＸ」は１０６４万円だった。

いずれも２年間で５～８割高騰した。新車発売時に親しんだ４０～５０歳代が主な顧客層となっている。

　横浜市で中古車売買を手がける「カレント自動車」の清水篤朗・買取事業部長は「豪快なエンジン音と加速が楽しめるスポーツカーがなくなってしまうのでは、という不安が広がっている」と説明する。

自動車大手の新型車は、ハイブリッド車や電気自動車など環境に配慮した車が主流となっているためだ。

■黄金期

　バブル期に各社がこぞって旧車を売り出した８０～９０年代は、「スポーツカーの黄金期」（清水氏）とされる。Ｆ１世界選手権などで日本メーカーが活躍した時期とも重なり、競技用に匹敵するエンジン性能を持つ車が数多く開発された。

　米国での旧車人気が高騰に拍車をかけている。日本の旧車が登場する映画「ワイルド・スピード」が２００１年に公開されて以降、根強い人気がある。米国では新車の人気を保つため、製造から２５年未満の車は一定以上の安全基準を満たさないと輸入できない規制がある。「黄金期」の旧車は近年、規制の対象外となり、輸出が拡大している。

　日本中古車輸出業協同組合によると、２１年の米国向け中古車輸出台数は１万１３８０台と１５年の４・７倍になった。旧車を輸出する「トップランク」（東京）の永井洋平取締役は「旧車が米国向け中古車輸出の大半を占める」と話す。

　旧車人気を受けた新サービスも登場した。トヨタ車の定額利用サービスを手がける「ＫＩＮＴＯ（キント）」は今夏、旧車を貸し出すサービスを東京都内で始めた。旧車ファンの親に感化され、その走りを新鮮に感じる２０～３０歳代の利用者も目立つという。