【町田 徹】文在寅という「災厄」…元駐韓大使が明かす、その絶望的な無能ぶり 韓国が生き残る道は一つしかない
2019年8月20日 6時0分 現代ビジネス史上最悪とも言える緊張状態に陥った日韓関係。いったい韓国はどうなってしまったのか。果たして関係改善の糸口は残されているのか。
元駐韓日本大使で日韓外交に40年携わってきた武藤正敏氏と、30年に及ぶ朝鮮半島関連取材を続けるジャーナリスト近藤大介氏が、文在寅政権について、4時間にわたって語り尽くした。
金正恩と同じように見えてきた
近藤: まずは武藤大使に対する懺悔(ざんげ)から始めさせてください。
2年前、正確に言うと2017年5月に、文在寅政権が発足し、そのタイミングで武藤大使が、前作『韓国人に生まれなくてよかった』を上梓されました。その本は文在寅新大統領への批判に満ちていて、韓国のほぼすべての主要メディアが、センセーショナルに取り上げました。発足当初の文在寅政権の支持率は84%もあり、韓国からすれば「日本の元駐韓大使が何を言うか!」と猛反発したわけです。
武藤: そうですね、私もあの時は韓国に随分叩かれました。
近藤: 私は当時、武藤大使の前作を拝読し、7~8割は納得したけれども、2~3割は反発がありました。あの頃の韓国は、朴槿恵前大統領に反対する累計1600万人もが参加した「ろうそくデモ」や、その後の朴大統領の弾劾などで、大混乱に陥っていた。そんな中で、文在寅という絶妙のバランス感覚を兼ね備えた政治家が新大統領に就いた、と思ったものです。
大統領選挙期間中、3回にわたって候補者たちのテレビ討論会が行われ、私は3回ともインターネットの生中継で見ましたが、文在寅候補の存在感は際立っていました。内政から外交まで、あらゆる質問に淀みなく答え、しかも誰も傷つけず、常に笑顔を絶やさない。
5月10日の大統領就任演説も、やはりインターネットの生中継で見ましたが、韓国現代史に残る名演説だと感心したものです。「私は手ぶらで青瓦台(韓国大統領府)に入って、また5年後に手ぶらで出ていく」「国民統合と和解の大韓民国を作るのが私の使命だ」……。
いまになって振り返ると、自分の見通しの甘さを恥じるばかりです。今回、『韓国人に生まれなくてよかった』を再読しましたが、100%納得がいきました(笑)。加えて、2年以上前にここまで見通していた武藤大使の洞察力には脱帽です。
武藤: 私の知人のソウル大学名誉教授も、私が文在寅大統領に懸念するといったら、彼は現実主義者だから大丈夫だといっていました。今韓国では、「文在寅を誤解していたのか、それとも文在寅が変節したのか?」という議論があるそうです。もちろん前者に決まっていますが(笑)。
また就任演説については、後に『朝鮮日報』が社説で、「ウソの饗宴だった」と酷評しています。「国民統合」なんて言っておきながら、真っ先に始めたのは「積弊清算」という保守派への仁義なき粛清だったのですから。
近藤: 武藤大使は先週テレビで、「文在寅の最近の盗人猛々しい等々の発言を聞いて文在寅は金正恩に似てきた」と喝破されていましたね。たしかに文在寅が最近やっている政敵の粛清という意味では、相手を殺すか監獄に入れるかの違いですね。
武藤: いやいや、「抗議の自殺」を遂げた李載寿・元国軍機務司令官を始め、すでに大物が何人も自殺しています。投獄された元幹部は50人以上に上ります。
私の前作を引き合いに出すなら、文在寅政権はこの2年余りで、当時私が予測した以上のことをやってのけた。つまり私の想像以上にひどい大統領だったわけです(笑)。
解決策はたった一つ
近藤: 今回の話題の新作『文在寅という災厄』ですが、ここには文在寅政権のすべて赤裸々に書かれていると言っても過言ではありません。周知のように日韓関係が悪化している中、日本人必読の書ですね。安倍晋三首相にも、河野太郎外相にも読んでほしい。できれば韓国人にもです。
武藤: 実は、韓国の複数の出版社から、すでに翻訳出版の打診が来ているんです。でも本当に、あの文在寅の独裁政権下で出せるのかなと。前作もある韓国の大手出版社から翻訳出版される予定だったのですが、出す直前になって、「すみません、やはり出せません」と詫びを入れてきました(笑)。
近藤: しかし、もしも韓国語版を出版した後に、その出版社の人が拘束されるようなことになれば、それは中国が2015年に、香港の銅鑼湾書店の関係者に対してやったことと同じではないですか。つまり韓国が、言論の自由が保障された民主国家ではないことを、内外に示してしまうことになります。
武藤: 文在寅政権下の韓国では、すでに言論の自由が保障された民主国家とは思えないことが、次々に起こっていますよ。過去の軍事独裁政権をあれほど批判しておきながら、やっていることはそれほど変わらない。
近藤: なるほど。ところで、『文在寅という災厄』をお書きになろうと思ったきっかけは、何だったのですか?
武藤: 文在寅政権に対して、いま多くの日本人が怒っていますが、日本人以上に韓国人が怒るべきだと言いたかったのです。私は韓国を専門とする外交官として、計40年間にわたって日韓問題に取り組み、最後は駐韓日本大使も務めました。そんな私から見て、韓国人をこれほど不幸にしている政権はないのです。
文在寅大統領は、日韓関係もズタズタにしたが、それ以上に韓国国内もズタズタにした。日韓関係は、文在寅氏が変われば取り返せますが、韓国がズタズタになれば取り返せないかもしれません。
そのため、結論めいたことを言えば、いまの最悪の日韓関係を改善する方法は、たった一つしかありません。それは文在寅大統領が代わることです。
近藤: 文在寅大統領の任期は、2022年5月までなので、まだようやく折り返し地点にさしかかるところです。朴槿恵前大統領は、5年の任期のうちラストの約1年を残して、弾劾されて大統領の座から引きずり降ろされました。しかしいまの韓国の状況を見ると、文在寅政権の支持率はまだ4割以上をキープしているし、2政権続けて弾劾で失脚するとは思えません。
武藤: 韓国国民には、ハートではなく頭で、文在寅政権について考えてほしいですね。
私は文在寅政権の誤りは、次の5つに集約されると考えています。それは日韓関係ばかりでなく、韓国の内政、経済、外交全てにわたって言えることです。
1)現実無視、2)言行不一致、3)無謬性と言い訳、4)国益無視、5)無為無策
1)は、起きている現実を把握することができないか、そもそも把握するつもりがない。今年2月、ハノイの米朝会談が破綻して以降、「北朝鮮は非核化を実現する」と主張している指導者は、世界広しといえども文在寅大統領だけです。
2)は、時と場合によって言うことが違う。日本とは「未来志向で」と言いながら、韓国国内では反日を盛り上げている。「運転者」と称して米朝関係を橋渡しするのはよいが、米朝双方にまったく違うことを平気で囁く。
3)は、間違いや責任を認めようとする気がなく、むしろ意固地になる。昨年12月に起こったレーダー照射事件でも、事実を捻じ曲げ、下手な言い訳に終始したのは周知の通りです。
4)は、国益のために政策を考えているのではなく、「革新政権」を継続させていくことを最優先している。実行する政策はそのための道具に過ぎない。無謀な経済政策を実施したり、各国に事前調整もなく北朝鮮の制裁緩和を説いて回るといったことです。
5)は、問題を認識していないか、認識していても、有効な改善策を考えられない。日本との徴用工問題が、その好例です。
国家公務員を腐らせる最低の政権
近藤: たしかに、そうやって5つに分類されると、私にも思い当たることがそれぞれあります。
1)は、今年7月の日韓対立を受けて、文大統領は「韓国と北朝鮮の経済を合わせれば日本に勝てる」と嘯いた。しかしIMFのデータによると、昨年のGDPで、12位の韓国は3位の日本のようやく3分の1。破綻国家の北朝鮮に至っては、193ヵ国の統計にも出てこない。いくら南北を加えても日本には遠く及びません(笑)。
2)は、私は「八方美人外交」と呼んでいますが、文大統領は誰にでもニコニコと笑顔を見せる。安倍首相の側近に確認したことがありますが、就任以来ただの一度も、慰安婦問題や徴用工問題で、面と向かって安倍首相を糾弾したことはないそうです。でも「八方美人外交」を続けていると、じきに誰からも相手にされなくなる。
3)の無謬性は、私は朱子学を信奉する朝鮮民族の特性だと考えています。すなわち、人は純白の状態で生を受けるが、次第に黒く濁っていく。それを正義が革(あらた)めるというわけです。しかし、革める側もいつしか革められていき、その繰り返しが韓国の歴史です。
4)は、今月北京に行ってきたのですが、中国では「韓国不要論」が強まっています。韓国が作れるものはもうすべて中国も作れるようになったので、韓国は不要だというわけです。
かつて10万人の韓国人がいたコリアタウン「望京」(ワンジン)は2万人まで減り、「北京の韓国の象徴」と言われた30階建ての「LGツインタワー」まで、7月に売りに出された。韓国としては、輸出の25%を占める中国がそんな状態なのに、「ボイコット・ジャパン」なんてやっている場合ではないのです。
5)の徴用工問題に関しては、昨年秋に韓国で大法院(最高裁)判決が出て日本が反発した際、青瓦台から東京の韓国大使館に、「対応策を考えろ」と指令が出たそうです。それで韓国大使館は、「関連する韓国企業と日本企業が共同で基金を設立して、そこから原告団に支払う」という解決策を考え、ソウルに送った。
そうしたら青瓦台は、「日本の責任なのにわが国にも押し付けるとは何事だ!」と怒り心頭。ところがそれから半年経って青瓦台は、同じ案を日本側に提案し、しかも東京の韓国大使館は寝耳に水だったそうです。
武藤: 韓国大使館は、5月に南官杓(ナム・グアンピョ)新大使が就任しましたが、苦労しているという話を聞きますね。
近藤: これは韓国を担当する日本の外交官から聞いた話ですが、6月に大阪G20(主要国・地域)サミットが開かれる直前、南新大使は日本側に、「とにかく各国首脳が安倍首相と会談するのに文大統領だけが会談しないとなると、大使としての私の面目が丸潰れになる」と言って、日韓首脳会談の開催を必死に懇願したそうです。日本側は、「それなら、お国の大統領に言行を改めるよう進言してはどうか」と答えて、取り合わなかったそうです。
南大使は、昨年6月にシンガポールで米朝首脳会談が開かれた際、韓国政府の報道官を務めていて、その時は現地で、懇切丁寧に私の質問に答えてくれたものです。しかし今年に入って、まさか渦中の栗を拾う役回りをやらされるとは、青天の霹靂だったことでしょう。
武藤: 私のところには、いまでも韓国外交部の情報が入ってきますが、韓国の外交官たちは、腐ってしまっています。外交官だけでなく、国家公務員全体がそのようです。
とんでもない命令が日々、素人集団の青瓦台から飛んできて、その処理に追われる。だが、当然の帰結として問題が発生すると、今度はその責任を押し付けられる。私も国家公務員を40年務めましたが、これは仕える公務員の立場から考えると最低の政権です。
恐るべき「鈍感力」
近藤: 私は日本が民主党政権だった2009年から2012年まで、北京で駐在員をしていましたが、当時の北京の日本大使館が、いまの東京の韓国大使館と似たような状況でした。そうなると公務員はリスク回避から無作為(職場放棄)状態になり、結果、国益を損ないます。
武藤: 国益を損なうと言えば、文在寅政権下で、韓国経済は大変なことになっています。実情を最も正確に表す青年層の「体感失業率」は、約25%。このまま行けば、1997年末の「IMFショック」(国家財政が破綻してIMFに委ねた危機)の再現となるでしょう。
近藤: そうですね。少し前に韓国へ行ったら、コンビニでバイトしている青年たちが皆、高学歴なのに驚きました。「コンビニのバイトでも競争率が高いんです」と漏らしていました。
私は週に1回、明治大学で「アジア国際関係論」の授業を受け持っていて、韓国人と中国人の留学生がそれぞれ数十人ずついるのですが、中国人は卒業すると帰国しますが、韓国人は日本で就職します。「帰国したら100社回っても就職できない」と嘆いています。
武藤: 韓国経済悪化の大きな原因が、「所得主導成長」という、文政権が始めた最悪の経済政策にあります。3年で最低賃金を時給1万ウォン(約880円)にするとブチ上げた。そのため、過去2年で29%も引き上げたのです。加えて、「週52時間労働」という働き方改革も断行した。
朴槿恵政権打倒で主導的役割を果たした民主労総におもねったわけですが、その結果、高い賃金を払えない中小零細企業がバタバタと倒れ、失業率が急増してしまった。
さらに、81万人も公的職員(公務員など)を増やすともブチ上げた。それで「学校の電気を消す公務員」みたいなヘンな人たちが登場した。こんな経済政策をとっているのは、世界広しといえども文在寅政権だけです。
文在寅政権は光復節の演説で北朝鮮との平和経済をぶち上げ、国民に「夢」を与えることで失政を隠そうとしましたが、このように何をする場合にも現実を直視せず、問題をすり替えている。それでは有効な処方箋を施すことができません。その結果、韓国経済は回復の機会を失い、落ちるところまで落ちかねません。私には、文在寅氏は「偉大なるヤブ医者」に見えます(笑)。
近藤: 日本のアベノミクスは「雨水型」、すなわちまず大企業を潤し、その恩恵を下部に及ぼしていくという経済政策ですが、文在寅政権が行っているのは「噴水型」。つまり、まず最低賃金を引き上げるという経済政策です。じつは中国も1990年代に「噴水型」を実施しましたが、その時は年に10%以上の経済成長があって、綿密な予測のもとにアクセルを踏みました。
ところが韓国は、今年の成長率が2%を割り込みそうだというのに、「噴水型」はあまりに無謀です。その結果、危険水域と言われていた「1ドル=1200ウォン」ラインを切って、ウォン安が止まりません。
武藤: 本来なら、そうした時こそ、日本が韓国と「通貨スワップ」を締結して支えてあげるところなのですが、財務省も金融庁も今の韓国を助けようという気持ちはないでしょう。韓国の財界は期待していますが、支援を得られないのは文政権の自業自得です。そのあたりの文在寅政権の「鈍感力」は半端ではない。
中国との比較で言うなら、中国の反日は国益を考えた戦略的反日で、韓国の反日は感情の赴くままのものです。
北朝鮮からも毛嫌いされ
近藤: ところで、文在寅大統領本人には、お会いになったことがありますか?
武藤: 駐韓日本大使時代の2012年に一度だけ会いまして、忘れられない記憶となっています。
当時、大統領選で野党統一候補になった文氏と会う約束をして、ソウルからプサンに赴きました。そして釜山で1時間ほど、文在寅候補に日韓関係の現状と展望について説明しました。
しかし、文候補が私に聞いたのはたった二つ。「日本は北朝鮮とどのような関係を築くつもりですか?」「日本は南北関係をどう捉えていますか?」。私はその時、この人の脳裏には北朝鮮のことしかないのだなと悟りました。日本との関係改善など、頭の片隅にもないのです。
近藤: その点は、進歩派(左派)で初めて大統領になり、日本文化を開放した故・金大中元大統領とは、随分と違いますね。
武藤: 私は金大中大統領とも、何度もお会いしましたが、人間の「器」(うつわ)が違いますよ。
1965年の日韓国交正常化以降、韓国が日本に譲歩したことは、たったの一度しかありません。それが、1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が結んだ「日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」です。
金大中大統領は日本文化を韓国市場に開放しましたが、それによってより得をしたのは、韓国の方でした。ヨン様などの韓流ブームで文化産業が隆盛し、2002年のワールドカップ日韓共同開催でも、ベスト4まで進んで湧いた。きっと金大中元大統領は今頃、草葉の陰から文在寅大統領を叱りつけたい気持ちでいっぱいでしょうね。
近藤: 北朝鮮に関しては、昨年は文在寅政権の「親北外交」が、大いに花開きました。しかし今年2月の「ハノイの決裂」以降、パッとしませんね。「3・1独立運動100周年」の記念行事にも、韓国が共同開催の秋波を送ったのに、北朝鮮は無視しました。
武藤: 私は、昨年9月に文大統領が訪朝した際、アメリカに何の根回しもせずに「軍事分野合意書」を結んでしまった時点で、トランプ政権は文政権に愛想を尽かしたと見ています。
当時、ポンペオ国務長官が康京和外相に抗議の電話を入れたと報道されました。勝手に非武装地帯にある監視所(GP)を撤収してしまったのですから、アメリカが怒るのも当然です。それどころか文大統領は、5000万韓国国民の生命と安全を守るという、大統領として最重要の任務さえ放棄してしまったに等しい。
それから南北関係について、一つ強調しておきたいことがあります。それは、文政権がこれだけ北朝鮮に擦り寄っているにもかかわらず、金正恩政権は文在寅政権を毛嫌いしていると思われること。北朝鮮が飢えに苦しんでいるのに、韓国は繁栄を謳歌している。北朝鮮の人々は韓国を羨望のまなざしで見ている。金正恩にとっては腹立たしいに違いありません。
韓国の支援だって、上から目線で言っている。北朝鮮が快く思っているとは思えません。北朝鮮は韓国を米国との橋渡しに利用しただけです。今はそれも必要なくなっているので、挑発行動に出ているのです。南北関係は「相思相愛」ではなくて、韓国側の一方的な「片思い」なのです。
韓国人よ目を覚ませ
近藤: 現在、文在寅外交は四面楚歌と言われていますが、そこにはアメリカ、中国、日本、そして北朝鮮も含まれるということですね。
たしかに北朝鮮が見ているのは、太平洋の向こうのトランプ政権だけのような気がします。昨年来、自分たちが望む国連の経済制裁解除のために、文在寅政権が無力なことを思い知りましたからね。
武藤: 南北関係に関しては、いくつもの「疑惑」があります。
北朝鮮が平昌冬季五輪に参加した際、なぜ大型客船「万景鋒号」で韓国に来させ、その近辺や上空に厳重な管制を敷いたのか。昨年9月に文在寅大統領が訪朝した際、なぜ4機もの政府専用機が必要だったのか。その後、韓国から北朝鮮に、済州島のミカン箱200tが贈られましたが、これも怪しい。
近藤: まさかミカンは入っていなかったでしょう(笑)。平昌五輪に関しては、北朝鮮が参加する見返りに、韓国から2億ドルが渡ったという話を聞きました。真偽のほどは確かめようがありませんが。
ところで、日本として北朝鮮に関するいま喫緊の問題は、8月24日までに韓国が、発効期間が切れる日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続させるかどうかですね。先日、防衛省の人に聞いたら、「主に情報が欲しいのは韓国の側なので継続するだろう」と楽観的でした。
ただ最近、韓国外交部の幹部は、「7月に日本が、わが国に対して軍事的な不信感を示したのであり、そのような状態でGSOMIAの継続は難しい」とも発言しています。
武藤: もしGSOMIAを破棄したら、軍事同盟国のアメリカが許さないでしょう。今月初旬にアジアを歴訪したエスパー新国防長官が、韓国に釘を刺したはずです。それでも「鈍感」な文政権が破棄したなら、これは在韓米軍の撤退や縮小にもつながるだけに、日本としては由々しき問題です。
近藤: それにしても、この調子では日韓関係の悪化は長期化しそうですね。米中2大国の対立、香港デモ、中台対立などで、東アジアは激動の時代に入っている今、本来なら日韓がケンカしている場合ではないのですが……。
武藤: いま考えられる最善の策は、できるだけ多くの韓国人に、文在寅政権の「災厄」を理解してもらい、できるだけ早くまともな大統領に代わってもらうことです。「災厄」はあくまでも文在寅大統領であって、韓国人ではないのです。
武藤正敏(むとう・まさとし)
1948年、東京都出身。横浜国立大学卒業後、外務省入省。朝鮮語研修の後、在大韓民国日本国大使館勤務。参事官、公使を歴任。前後してアジア局北東アジア課長、在オーストラリア日本大使館公使、在ホノルル総領事、在クウェート特命全権大使などを歴任した後、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』『韓国の大誤算』『韓国人に生まれなくてよかった』などがある。
https://news.livedoor.com/article/detail/16951877/
【町田 徹】文在寅という「災厄」…元駐韓大使が明かす、その絶望的な無能ぶり 韓国が生き残る道は一つしかない
2019年8月20日 6時0分 現代ビジネス史上最悪とも言える緊張状態に陥った日韓関係。いったい韓国はどうなってしまったのか。果たして関係改善の糸口は残されているのか。
元駐韓日本大使で日韓外交に40年携わってきた武藤正敏氏と、30年に及ぶ朝鮮半島関連取材を続けるジャーナリスト近藤大介氏が、文在寅政権について、4時間にわたって語り尽くした。
金正恩と同じように見えてきた
近藤: まずは武藤大使に対する懺悔(ざんげ)から始めさせてください。
2年前、正確に言うと2017年5月に、文在寅政権が発足し、そのタイミングで武藤大使が、前作『韓国人に生まれなくてよかった』を上梓されました。その本は文在寅新大統領への批判に満ちていて、韓国のほぼすべての主要メディアが、センセーショナルに取り上げました。発足当初の文在寅政権の支持率は84%もあり、韓国からすれば「日本の元駐韓大使が何を言うか!」と猛反発したわけです。
武藤: そうですね、私もあの時は韓国に随分叩かれました。
近藤: 私は当時、武藤大使の前作を拝読し、7~8割は納得したけれども、2~3割は反発がありました。あの頃の韓国は、朴槿恵前大統領に反対する累計1600万人もが参加した「ろうそくデモ」や、その後の朴大統領の弾劾などで、大混乱に陥っていた。そんな中で、文在寅という絶妙のバランス感覚を兼ね備えた政治家が新大統領に就いた、と思ったものです。
大統領選挙期間中、3回にわたって候補者たちのテレビ討論会が行われ、私は3回ともインターネットの生中継で見ましたが、文在寅候補の存在感は際立っていました。内政から外交まで、あらゆる質問に淀みなく答え、しかも誰も傷つけず、常に笑顔を絶やさない。
5月10日の大統領就任演説も、やはりインターネットの生中継で見ましたが、韓国現代史に残る名演説だと感心したものです。「私は手ぶらで青瓦台(韓国大統領府)に入って、また5年後に手ぶらで出ていく」「国民統合と和解の大韓民国を作るのが私の使命だ」……。
いまになって振り返ると、自分の見通しの甘さを恥じるばかりです。今回、『韓国人に生まれなくてよかった』を再読しましたが、100%納得がいきました(笑)。加えて、2年以上前にここまで見通していた武藤大使の洞察力には脱帽です。
武藤: 私の知人のソウル大学名誉教授も、私が文在寅大統領に懸念するといったら、彼は現実主義者だから大丈夫だといっていました。今韓国では、「文在寅を誤解していたのか、それとも文在寅が変節したのか?」という議論があるそうです。もちろん前者に決まっていますが(笑)。
また就任演説については、後に『朝鮮日報』が社説で、「ウソの饗宴だった」と酷評しています。「国民統合」なんて言っておきながら、真っ先に始めたのは「積弊清算」という保守派への仁義なき粛清だったのですから。
近藤: 武藤大使は先週テレビで、「文在寅の最近の盗人猛々しい等々の発言を聞いて文在寅は金正恩に似てきた」と喝破されていましたね。たしかに文在寅が最近やっている政敵の粛清という意味では、相手を殺すか監獄に入れるかの違いですね。
武藤: いやいや、「抗議の自殺」を遂げた李載寿・元国軍機務司令官を始め、すでに大物が何人も自殺しています。投獄された元幹部は50人以上に上ります。
私の前作を引き合いに出すなら、文在寅政権はこの2年余りで、当時私が予測した以上のことをやってのけた。つまり私の想像以上にひどい大統領だったわけです(笑)。
解決策はたった一つ
近藤: 今回の話題の新作『文在寅という災厄』ですが、ここには文在寅政権のすべて赤裸々に書かれていると言っても過言ではありません。周知のように日韓関係が悪化している中、日本人必読の書ですね。安倍晋三首相にも、河野太郎外相にも読んでほしい。できれば韓国人にもです。
武藤: 実は、韓国の複数の出版社から、すでに翻訳出版の打診が来ているんです。でも本当に、あの文在寅の独裁政権下で出せるのかなと。前作もある韓国の大手出版社から翻訳出版される予定だったのですが、出す直前になって、「すみません、やはり出せません」と詫びを入れてきました(笑)。
近藤: しかし、もしも韓国語版を出版した後に、その出版社の人が拘束されるようなことになれば、それは中国が2015年に、香港の銅鑼湾書店の関係者に対してやったことと同じではないですか。つまり韓国が、言論の自由が保障された民主国家ではないことを、内外に示してしまうことになります。
武藤: 文在寅政権下の韓国では、すでに言論の自由が保障された民主国家とは思えないことが、次々に起こっていますよ。過去の軍事独裁政権をあれほど批判しておきながら、やっていることはそれほど変わらない。
近藤: なるほど。ところで、『文在寅という災厄』をお書きになろうと思ったきっかけは、何だったのですか?
武藤: 文在寅政権に対して、いま多くの日本人が怒っていますが、日本人以上に韓国人が怒るべきだと言いたかったのです。私は韓国を専門とする外交官として、計40年間にわたって日韓問題に取り組み、最後は駐韓日本大使も務めました。そんな私から見て、韓国人をこれほど不幸にしている政権はないのです。
文在寅大統領は、日韓関係もズタズタにしたが、それ以上に韓国国内もズタズタにした。日韓関係は、文在寅氏が変われば取り返せますが、韓国がズタズタになれば取り返せないかもしれません。
そのため、結論めいたことを言えば、いまの最悪の日韓関係を改善する方法は、たった一つしかありません。それは文在寅大統領が代わることです。
近藤: 文在寅大統領の任期は、2022年5月までなので、まだようやく折り返し地点にさしかかるところです。朴槿恵前大統領は、5年の任期のうちラストの約1年を残して、弾劾されて大統領の座から引きずり降ろされました。しかしいまの韓国の状況を見ると、文在寅政権の支持率はまだ4割以上をキープしているし、2政権続けて弾劾で失脚するとは思えません。
武藤: 韓国国民には、ハートではなく頭で、文在寅政権について考えてほしいですね。
私は文在寅政権の誤りは、次の5つに集約されると考えています。それは日韓関係ばかりでなく、韓国の内政、経済、外交全てにわたって言えることです。
1)現実無視、2)言行不一致、3)無謬性と言い訳、4)国益無視、5)無為無策
1)は、起きている現実を把握することができないか、そもそも把握するつもりがない。今年2月、ハノイの米朝会談が破綻して以降、「北朝鮮は非核化を実現する」と主張している指導者は、世界広しといえども文在寅大統領だけです。
2)は、時と場合によって言うことが違う。日本とは「未来志向で」と言いながら、韓国国内では反日を盛り上げている。「運転者」と称して米朝関係を橋渡しするのはよいが、米朝双方にまったく違うことを平気で囁く。
3)は、間違いや責任を認めようとする気がなく、むしろ意固地になる。昨年12月に起こったレーダー照射事件でも、事実を捻じ曲げ、下手な言い訳に終始したのは周知の通りです。
4)は、国益のために政策を考えているのではなく、「革新政権」を継続させていくことを最優先している。実行する政策はそのための道具に過ぎない。無謀な経済政策を実施したり、各国に事前調整もなく北朝鮮の制裁緩和を説いて回るといったことです。
5)は、問題を認識していないか、認識していても、有効な改善策を考えられない。日本との徴用工問題が、その好例です。
国家公務員を腐らせる最低の政権
近藤: たしかに、そうやって5つに分類されると、私にも思い当たることがそれぞれあります。
1)は、今年7月の日韓対立を受けて、文大統領は「韓国と北朝鮮の経済を合わせれば日本に勝てる」と嘯いた。しかしIMFのデータによると、昨年のGDPで、12位の韓国は3位の日本のようやく3分の1。破綻国家の北朝鮮に至っては、193ヵ国の統計にも出てこない。いくら南北を加えても日本には遠く及びません(笑)。
2)は、私は「八方美人外交」と呼んでいますが、文大統領は誰にでもニコニコと笑顔を見せる。安倍首相の側近に確認したことがありますが、就任以来ただの一度も、慰安婦問題や徴用工問題で、面と向かって安倍首相を糾弾したことはないそうです。でも「八方美人外交」を続けていると、じきに誰からも相手にされなくなる。
3)の無謬性は、私は朱子学を信奉する朝鮮民族の特性だと考えています。すなわち、人は純白の状態で生を受けるが、次第に黒く濁っていく。それを正義が革(あらた)めるというわけです。しかし、革める側もいつしか革められていき、その繰り返しが韓国の歴史です。
4)は、今月北京に行ってきたのですが、中国では「韓国不要論」が強まっています。韓国が作れるものはもうすべて中国も作れるようになったので、韓国は不要だというわけです。
かつて10万人の韓国人がいたコリアタウン「望京」(ワンジン)は2万人まで減り、「北京の韓国の象徴」と言われた30階建ての「LGツインタワー」まで、7月に売りに出された。韓国としては、輸出の25%を占める中国がそんな状態なのに、「ボイコット・ジャパン」なんてやっている場合ではないのです。
5)の徴用工問題に関しては、昨年秋に韓国で大法院(最高裁)判決が出て日本が反発した際、青瓦台から東京の韓国大使館に、「対応策を考えろ」と指令が出たそうです。それで韓国大使館は、「関連する韓国企業と日本企業が共同で基金を設立して、そこから原告団に支払う」という解決策を考え、ソウルに送った。
そうしたら青瓦台は、「日本の責任なのにわが国にも押し付けるとは何事だ!」と怒り心頭。ところがそれから半年経って青瓦台は、同じ案を日本側に提案し、しかも東京の韓国大使館は寝耳に水だったそうです。
武藤: 韓国大使館は、5月に南官杓(ナム・グアンピョ)新大使が就任しましたが、苦労しているという話を聞きますね。
近藤: これは韓国を担当する日本の外交官から聞いた話ですが、6月に大阪G20(主要国・地域)サミットが開かれる直前、南新大使は日本側に、「とにかく各国首脳が安倍首相と会談するのに文大統領だけが会談しないとなると、大使としての私の面目が丸潰れになる」と言って、日韓首脳会談の開催を必死に懇願したそうです。日本側は、「それなら、お国の大統領に言行を改めるよう進言してはどうか」と答えて、取り合わなかったそうです。
南大使は、昨年6月にシンガポールで米朝首脳会談が開かれた際、韓国政府の報道官を務めていて、その時は現地で、懇切丁寧に私の質問に答えてくれたものです。しかし今年に入って、まさか渦中の栗を拾う役回りをやらされるとは、青天の霹靂だったことでしょう。
武藤: 私のところには、いまでも韓国外交部の情報が入ってきますが、韓国の外交官たちは、腐ってしまっています。外交官だけでなく、国家公務員全体がそのようです。
とんでもない命令が日々、素人集団の青瓦台から飛んできて、その処理に追われる。だが、当然の帰結として問題が発生すると、今度はその責任を押し付けられる。私も国家公務員を40年務めましたが、これは仕える公務員の立場から考えると最低の政権です。
恐るべき「鈍感力」
近藤: 私は日本が民主党政権だった2009年から2012年まで、北京で駐在員をしていましたが、当時の北京の日本大使館が、いまの東京の韓国大使館と似たような状況でした。そうなると公務員はリスク回避から無作為(職場放棄)状態になり、結果、国益を損ないます。
武藤: 国益を損なうと言えば、文在寅政権下で、韓国経済は大変なことになっています。実情を最も正確に表す青年層の「体感失業率」は、約25%。このまま行けば、1997年末の「IMFショック」(国家財政が破綻してIMFに委ねた危機)の再現となるでしょう。
近藤: そうですね。少し前に韓国へ行ったら、コンビニでバイトしている青年たちが皆、高学歴なのに驚きました。「コンビニのバイトでも競争率が高いんです」と漏らしていました。
私は週に1回、明治大学で「アジア国際関係論」の授業を受け持っていて、韓国人と中国人の留学生がそれぞれ数十人ずついるのですが、中国人は卒業すると帰国しますが、韓国人は日本で就職します。「帰国したら100社回っても就職できない」と嘆いています。
武藤: 韓国経済悪化の大きな原因が、「所得主導成長」という、文政権が始めた最悪の経済政策にあります。3年で最低賃金を時給1万ウォン(約880円)にするとブチ上げた。そのため、過去2年で29%も引き上げたのです。加えて、「週52時間労働」という働き方改革も断行した。
朴槿恵政権打倒で主導的役割を果たした民主労総におもねったわけですが、その結果、高い賃金を払えない中小零細企業がバタバタと倒れ、失業率が急増してしまった。
さらに、81万人も公的職員(公務員など)を増やすともブチ上げた。それで「学校の電気を消す公務員」みたいなヘンな人たちが登場した。こんな経済政策をとっているのは、世界広しといえども文在寅政権だけです。
文在寅政権は光復節の演説で北朝鮮との平和経済をぶち上げ、国民に「夢」を与えることで失政を隠そうとしましたが、このように何をする場合にも現実を直視せず、問題をすり替えている。それでは有効な処方箋を施すことができません。その結果、韓国経済は回復の機会を失い、落ちるところまで落ちかねません。私には、文在寅氏は「偉大なるヤブ医者」に見えます(笑)。
近藤: 日本のアベノミクスは「雨水型」、すなわちまず大企業を潤し、その恩恵を下部に及ぼしていくという経済政策ですが、文在寅政権が行っているのは「噴水型」。つまり、まず最低賃金を引き上げるという経済政策です。じつは中国も1990年代に「噴水型」を実施しましたが、その時は年に10%以上の経済成長があって、綿密な予測のもとにアクセルを踏みました。
ところが韓国は、今年の成長率が2%を割り込みそうだというのに、「噴水型」はあまりに無謀です。その結果、危険水域と言われていた「1ドル=1200ウォン」ラインを切って、ウォン安が止まりません。
武藤: 本来なら、そうした時こそ、日本が韓国と「通貨スワップ」を締結して支えてあげるところなのですが、財務省も金融庁も今の韓国を助けようという気持ちはないでしょう。韓国の財界は期待していますが、支援を得られないのは文政権の自業自得です。そのあたりの文在寅政権の「鈍感力」は半端ではない。
中国との比較で言うなら、中国の反日は国益を考えた戦略的反日で、韓国の反日は感情の赴くままのものです。
北朝鮮からも毛嫌いされ
近藤: ところで、文在寅大統領本人には、お会いになったことがありますか?
武藤: 駐韓日本大使時代の2012年に一度だけ会いまして、忘れられない記憶となっています。
当時、大統領選で野党統一候補になった文氏と会う約束をして、ソウルからプサンに赴きました。そして釜山で1時間ほど、文在寅候補に日韓関係の現状と展望について説明しました。
しかし、文候補が私に聞いたのはたった二つ。「日本は北朝鮮とどのような関係を築くつもりですか?」「日本は南北関係をどう捉えていますか?」。私はその時、この人の脳裏には北朝鮮のことしかないのだなと悟りました。日本との関係改善など、頭の片隅にもないのです。
近藤: その点は、進歩派(左派)で初めて大統領になり、日本文化を開放した故・金大中元大統領とは、随分と違いますね。
武藤: 私は金大中大統領とも、何度もお会いしましたが、人間の「器」(うつわ)が違いますよ。
1965年の日韓国交正常化以降、韓国が日本に譲歩したことは、たったの一度しかありません。それが、1998年に小渕恵三首相と金大中大統領が結んだ「日韓共同宣言―21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」です。
金大中大統領は日本文化を韓国市場に開放しましたが、それによってより得をしたのは、韓国の方でした。ヨン様などの韓流ブームで文化産業が隆盛し、2002年のワールドカップ日韓共同開催でも、ベスト4まで進んで湧いた。きっと金大中元大統領は今頃、草葉の陰から文在寅大統領を叱りつけたい気持ちでいっぱいでしょうね。
近藤: 北朝鮮に関しては、昨年は文在寅政権の「親北外交」が、大いに花開きました。しかし今年2月の「ハノイの決裂」以降、パッとしませんね。「3・1独立運動100周年」の記念行事にも、韓国が共同開催の秋波を送ったのに、北朝鮮は無視しました。
武藤: 私は、昨年9月に文大統領が訪朝した際、アメリカに何の根回しもせずに「軍事分野合意書」を結んでしまった時点で、トランプ政権は文政権に愛想を尽かしたと見ています。
当時、ポンペオ国務長官が康京和外相に抗議の電話を入れたと報道されました。勝手に非武装地帯にある監視所(GP)を撤収してしまったのですから、アメリカが怒るのも当然です。それどころか文大統領は、5000万韓国国民の生命と安全を守るという、大統領として最重要の任務さえ放棄してしまったに等しい。
それから南北関係について、一つ強調しておきたいことがあります。それは、文政権がこれだけ北朝鮮に擦り寄っているにもかかわらず、金正恩政権は文在寅政権を毛嫌いしていると思われること。北朝鮮が飢えに苦しんでいるのに、韓国は繁栄を謳歌している。北朝鮮の人々は韓国を羨望のまなざしで見ている。金正恩にとっては腹立たしいに違いありません。
韓国の支援だって、上から目線で言っている。北朝鮮が快く思っているとは思えません。北朝鮮は韓国を米国との橋渡しに利用しただけです。今はそれも必要なくなっているので、挑発行動に出ているのです。南北関係は「相思相愛」ではなくて、韓国側の一方的な「片思い」なのです。
韓国人よ目を覚ませ
近藤: 現在、文在寅外交は四面楚歌と言われていますが、そこにはアメリカ、中国、日本、そして北朝鮮も含まれるということですね。
たしかに北朝鮮が見ているのは、太平洋の向こうのトランプ政権だけのような気がします。昨年来、自分たちが望む国連の経済制裁解除のために、文在寅政権が無力なことを思い知りましたからね。
武藤: 南北関係に関しては、いくつもの「疑惑」があります。
北朝鮮が平昌冬季五輪に参加した際、なぜ大型客船「万景鋒号」で韓国に来させ、その近辺や上空に厳重な管制を敷いたのか。昨年9月に文在寅大統領が訪朝した際、なぜ4機もの政府専用機が必要だったのか。その後、韓国から北朝鮮に、済州島のミカン箱200tが贈られましたが、これも怪しい。
近藤: まさかミカンは入っていなかったでしょう(笑)。平昌五輪に関しては、北朝鮮が参加する見返りに、韓国から2億ドルが渡ったという話を聞きました。真偽のほどは確かめようがありませんが。
ところで、日本として北朝鮮に関するいま喫緊の問題は、8月24日までに韓国が、発効期間が切れる日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続させるかどうかですね。先日、防衛省の人に聞いたら、「主に情報が欲しいのは韓国の側なので継続するだろう」と楽観的でした。
ただ最近、韓国外交部の幹部は、「7月に日本が、わが国に対して軍事的な不信感を示したのであり、そのような状態でGSOMIAの継続は難しい」とも発言しています。
武藤: もしGSOMIAを破棄したら、軍事同盟国のアメリカが許さないでしょう。今月初旬にアジアを歴訪したエスパー新国防長官が、韓国に釘を刺したはずです。それでも「鈍感」な文政権が破棄したなら、これは在韓米軍の撤退や縮小にもつながるだけに、日本としては由々しき問題です。
近藤: それにしても、この調子では日韓関係の悪化は長期化しそうですね。米中2大国の対立、香港デモ、中台対立などで、東アジアは激動の時代に入っている今、本来なら日韓がケンカしている場合ではないのですが……。
武藤: いま考えられる最善の策は、できるだけ多くの韓国人に、文在寅政権の「災厄」を理解してもらい、できるだけ早くまともな大統領に代わってもらうことです。「災厄」はあくまでも文在寅大統領であって、韓国人ではないのです。
武藤正敏(むとう・まさとし)
1948年、東京都出身。横浜国立大学卒業後、外務省入省。朝鮮語研修の後、在大韓民国日本国大使館勤務。参事官、公使を歴任。前後してアジア局北東アジア課長、在オーストラリア日本大使館公使、在ホノルル総領事、在クウェート特命全権大使などを歴任した後、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』『韓国の大誤算』『韓国人に生まれなくてよかった』などがある。
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