■いまさらな話ですが。
別の板ですが、ウイグル人の音韻の話が聞けましたので、備忘的に書いておくことにします。
もうここでは廃れて久しいとは思いますが、昔は「プランス」だの「コピ」を馬鹿にするコメントが結構¥あったものですが、そのあたりの話。
様々な言語の音韻体系は、基本的に区別(弁別)のシステムであるといえます。たとえば日本語では、kashi(菓子)とkaji(火事)は意味的に全く別のものを指称します。日本語の体系では「shi(し)」と「ji(じ)」を完全に別のものとして扱っているため、両者を混同する事はありません。
ですが、(完全な物理学としての)音響学では特定の発音を厳密に区別することは実は難しく、たとえば老人の低い声でも、女性の高い声でも、周波数は大きく違えど日本語話者には「ら」は「ら」に聞こえますし、「だ」は「だ」に聞こえます。周波数といった物理特性ではここまではある音韻、ここからは別の音韻という線引きを定めることができません。音韻はある特徴の差異でもって区別する、というもので、この考え方を「弁別素性」といいます。先の「shi(し)」と「ji(じ)」の例で言えば、最初から有声音か無声音かで違う音になる(対立する)訳です。
しかし、他の言語を母語とするものがこの区別をするかといえば必ずしもそうではなくて、別の方法を採る言語もあります。韓国語では有声音と無声音は対立せず、よって意味の区別は生じません。その代わり、子音の閉鎖から母音の発声のため声門を振るわせる時間の長さで3つの区別が生じます。(kʰが長く、kが普通、kkが短い)
以下に日韓の阻害音の対比を上げておきます。
k kʰ kk <韓 日> k g
t tʰ tt <韓 日> t d
p pʰ pp <韓 日> p b
c cʰ cc <韓 日>
sʰ ss <韓 日> s z
逆に日本語ではこの区別が無いため、差は認識できずせいぜい語気の強弱程度の認識になります。
実はこの日韓の仕組みは実は差異は殆どなく、子音の閉鎖・開放から母音発声のための声門振動の時間をどのように区別するか、というVoice onset timeの使用方法の話であり、聞くものにとっては大きく差異があるように感じますが、いわば阻害音の利用方法の若干の違いでしかありません。(でも普通、互いに聞き分けはできません。)
言語間でシステムが違うのは当たり前で、清濁の区別が当たり前と思うのは間違いですし、「プランス」を聞いて笑っている日本語話者が正確に「France(/fʁɑ̃sɛ/)」と言えてるのかというと言えてないか、たまたま近似音が言えちゃってるだけだと思いますよ。
yonaki@お遊び中