「京」首位陥落 奪還、険しい道のり…
問われる利用成果
世界最速を誇った日本のスーパーコンピューター「京(けい)」が2位に転落し、1年でトップの座を明け渡した。京を超える次世代機の開発で世界がしのぎを削る中で、首位奪還への道のりは険しい。今後は順位争いだけでなく、活用の成果で真価を問われそうだ。(草下健夫)
■1・5倍の大差
「予想されたことだが残念。消費電力の低さでも負けた」「早く成果を挙げなくては」。18日に発表されたスパコンの世界ランキング「TOP500」の結果について、理化学研究所の関係者はこう話す。
首位に立ったのは米ローレンス・リバモア国立研究所にあるIBM製の「セコイア」。計算速度は毎秒1京6324兆回(京は1兆の1万倍)で、京の1・5倍という圧勝だった。
心臓部の計算用CPU(中央演算処理装置)は、京より約2割多い9万8304個。CPUを収納するラックは京の864台に対して、セコイアはわずか96台と少ない。最もエネルギー効率の高いスパコンの一つとの評価も得た。
筑波大計算科学研究センターの似鳥(にたどり)啓吾主任研究員は「簡素な構造で高密度化に成功したうえ、同じ電力で京の2、3倍の性能を発揮する」と評価する。
スパコンは10年で性能が千倍に向上するといわれ、技術革新のスピードが非常に速い。海洋研究開発機構の「地球シミュレータ」は2002年に世界首位となり、2年半にわたり君臨したが、現在は145位に甘んじている。
■開発に総合力
ただ、スパコンの評価は計算速度だけではない。似鳥氏は「京は多くの分野での活用を念頭に作られたが、セコイアは設計思想が異なり、分野によっては使いこなすのが難しい」と指摘する。ローレンス・リバモア国立研究所の資料によると、セコイアは核兵器の管理などに用いるという。
スパコンの開発は集積度の高いCPUに加え、部品の一部が故障しても作動し続ける安定性、膨大な資金や電力確保などの総合力が要求される。
このため長く日米の争いだったが、近年は技術や人材を獲得する狙いから中国やロシア、インドも取り組みを強めている。だが中国などは、ランキングを決める計測では速いが、活用のためのアプリケーションに乏しく、国の威信を示す側面が強いという。
■減災で活用期待
京は今月末に完成し、9月末に研究機関や企業などの利用が始まる。成果の公開を条件に無償で利用できるほか、企業秘密などを理由に非公開とする場合も有償で利用可能。一般的な企業が使うスパコンが3年ほどかかる仕事を1日でこなし、製品開発などが迅速に行えるようになる。
生命科学、防災などの重点5分野ですでに先行利用がスタート。細胞内のタンパク質の構造や機能の解明、地震・津波や集中豪雨の予測、宇宙の謎の解明のほか、新薬や電子デバイスの開発といった多彩な分野で成果が期待されている。
東大の古村孝志教授らは東海・東南海・南海地震の3つが連動する巨大地震の際に、海底に設置した津波計の観測データをケーブルで伝送し、襲来する津波の高さや浸水域をシミュレーションして短時間に予測、避難に役立てる研究を始めた。
また北海道大の坪倉誠准教授は、自動車の設計プロセスに利用する研究を進めている。車が急に横風であおられるような状況などを再現することで、ものづくりが10年早まるという。
世界のスパコン開発は、100京の計算速度を目指す「次の競争」がすでに始まっている。しかし、日本は“ポスト京”の構想は具体化しておらず、性能では当分の間、勝ち目はない。次世代機の開発につなげるためにも、京は陳腐化する前にどれだけ成果を挙げられるかが勝負になる。
2012年6月25日 産経新聞 東京朝刊
世界一であることは、意義あることだろうけど、
やっぱりそれに見合った成果がなければ・・・ってことね!